トップアスリートに聞く食事学 Vol.9
2010/05/07
河谷 彰子
平子 美佐江(ひらこ みさえ 旧姓:武田) |
香川 真由美(かがわ まゆみ) 1974年7月16日生 |
バンクーバーオリンピックでスピードスケート長島選手が銀メダルを獲った次の日、私は帯広を訪れていました。帯広の市役所には応援コーナーが設けられ、横断幕も張られ応援一色でした。帯広出身のスピードスケート元オリンピック選手二方に貴重なお話しをうかがうことが出来ました。
世代が違うと、選手の様々な環境に大きな違いがあるようです。強いアスリートになるには、もしくは育てるためには、何が一番の環境であり方法なのでしょう?
今回はロングインタビューのため、2回に分けてお送り致します。
平子さん:平 香川さん:香で記載しております。
1.バランスの良い食事が柔かい筋肉を作る。
平: |
今の子供って背ばっかり大きくて、骨や筋肉がついてこないからか、あちこち故障が多いのよね。それに、昔に比べて身体が硬いように感じる。アスリートは筋肉が硬かったらダメよ…柔かい筋肉じゃないと。 |
香: |
身体が硬いと、どうしても競技力に限界が来る。 |
平: |
身体が硬いのは食事のせいもあるんじゃない。肉は好きだけど、野菜は嫌い。偏った食事ではしっかり成長もしないんじゃない。 |
香: |
今の子供達は食事の必要性を感じていないんじゃないでしょうか。 食べるのも競争というか、食事の場面でさえも競争が始まっているんだと昔よくコーチに言われていました。何でも食べることができない選手は勝てないって。 |
河谷のコメント: 栄養学的に筋肉が柔らかくなる食べ物はありませんが、トレーニングをしてしっかりストレッチする。そしてバランスの良い食事をすることが大切。トレーニングにはウォーミングアップとクーリングダウンも大切にすることを忘れてはいけません。 海外のトレーニング事情を知るアスリートやコーチが感じていることに、“日本人はクーリングダウンを始めとするトレーニング後のケアにかける時間が非常に短い”ということがあります。 またトレーニング時間の関係上、十分に練習場所でアフターケアをすることが出来ない年代もあるでしょう。だからこそ、ジュニア期には家でのアフターケアの方法を教えてあげて自分でできることが大切になってくるのではないでしょうか。 もしかしたらバランスの良い食事を食べているアスリートは、アフターケアも十分に行なっているなど、自己管理ができているから“バランスの良い食事が柔かい筋肉を作る”とお二人は感じているのかもしれませんね。 |
2.朝食からしっかり食べて強い選手になろう!食べ方・箸の持ち方も大切。
平: |
やっぱり栄養のバランスが大切じゃない。そして、朝食はちゃんと食べたほうが良い。 |
香: |
同じ年代の子供と比べて身体の小さい子は、食が細い子の場合が多いんです。 |
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平: |
やっぱりスタミナがある選手は胃腸が強いよね。 |
香: |
今の子供たちの食べ方も気になりますよね。ご飯とおかずを交互に食べることができない子供が最近多く見受けられます。ご飯だけ、おかずだけなどと、1品ずつ食べていく傾向があるのが気になります。 |
平: |
そういう家庭は、丼系やチャーハンとかオムライスとか、そういうのが多いのかな。 |
香: |
きっと、別々に盛られたおかずとご飯を一緒に食べるという習慣がないのでしょうね。 |
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平: | 食べ方や箸の持ち方とかの作法は、やっぱり家のしつけよね。色々見ていれば、家庭の環境は分かる。ちゃんと座って食べることができないっていう子もたくさんいる。 今の学校の先生は、自分達は勉強を教えるところで、しつけをするところじゃないって考えだから。やっぱり食べ方は家庭のしつけが大切になってくるんじゃない?
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河谷のコメント: 朝食を欠食する子供や大人が非常に多いということが、食育の課題として早急に解決すべき問題として挙げられています。私はどんなアスリートに対しても、まず朝食をしっかり食べることのメリットを伝えて、食べるように促すことからアドバイスを始めるようにしています。(勝てるアスリートの食事学Vol.26参照) 朝食をしっかり食べるようになるだけで、1日の過ごし方・1日の食事量・身体の大きさ(中でも筋肉量)等、様々なことが変わります。 朝食は食べられない!と決めつけているアスリートの方!!本当にそのままで良いのでしょうか?スタミナがある選手は胃腸が強いという平子さんのコメントを胸に、今よりご飯を半膳もしくはパンを1/2枚などと、少し朝食量を増やしてみませんか?1週間後には、無理なく食べられるようになりますし、そのまま続けて少しずつ食事量を増やしていくと1ヵ月後には食べないと1日が始まらないという位にまで変わってくるアスリートもいらっしゃいますよ。 その他の食育の課題として、個食・弧食…色々なコ食という問題があります。家族がバラバラのものを食べていたり、バラバラの場所で食べていたり、食卓を囲むことが少ないということも大きな問題です。家族の楽しい会話は、食卓で交わされることも多いでしょう。さらにしつけも行なわれることでしょう。 食卓は心と身体を成長させると共に、人としてのマナーを身につけることができる場です。だからこそ、食事の環境は大切にしたいところです。アスリートの食事というと、とにかく食べることが注目されがちではありますが、その前に人として大切なマナーを身につけておいて欲しいところですね。 |
3.時代と共に色々変わった。そして親も変わった。
平: |
昔は農家が多かったけど、この辺りの町の人は会社勤めとかパートが増えました。お昼まで仕事して、子供が帰ってくる頃、家に帰ったりして。今のお母さんは色々忙しいから惣菜を買ってくることも多いような気がする。 |
香: |
ひじきの見た目が気持ち悪いとか言って、食べない子供が最近いますよね。
スポーツに対する考え方も違ってきているように感じます。 ジュニアの頃に年代以上に強いと、親御さんも子供も全て自分のやり方が正しいと勘違いしてしまうなど間違った気持ちや考えになってしまうこともある。テレビである選手がこんなトレーニングをやったなど聞きかじったら、それをレベルに合う合わないに関わらずやってみたり…。そのためコーチは、人間形成を含めて選手にコーチしていかないといけない。
教え子達には将来、人の気持ちを思いやることができる人間になって欲しいです。強くなると、子供達の中にはコーチの言うことを聞かなくなったり、親御さんも次から次へと新しい情報を集めてきては足元を見失うケースもあるんですよね。 |
河谷のコメント: 世の中が色々と便利になることが、非常に嬉しいことですし、活用したいところです。ただその活用方法が間違っているのでは?と感じることが多いのも正直なところです。 保護者の方々は、子供達にコンビニを使うためにとお金を渡すだけではなく、帰ってきたら何を買ったのか?などを確認して、今後につなげられるアドバイスをすると良いですね。(勝てるアスリートの食事学Vol. 22参照) 便利になった環境をフル活用するには、正しい知識が必要になってきます。 憧れのあの選手がやっているから何もかも真似したくなる気持ちは分かりますが、自分にとって今一番大切なことなのか?その前にやることはないだろうか?など特にジュニア期には十分検討した方が良いでしょう。 |
アスリートと言えども、ジュニア期には食育という観点を忘れてはいけませんね。
昔は良かった…というつもりは全くありませんが、世の中の変化に伴って、家庭での食事風景は変わることはあるでしょう。でも、親から子へ伝えたいことというのは今も昔も変わらずあるはずです。それが食事の場で伝えられることも中にはあるのではないでしょうか。
何をまず大切にしたいでしょうか。色々と考えさせられたインタビューでした。
次回もお楽しみに。
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