トップアスリートに聞く食事学 Vol.11



2010/06/01




河谷 彰子

三浦 淳宏(みうら あつひろ)

1974年7月24日生
大分県大分市出身
プロサッカー選手。ポジションは、MF。元日本代表。
国見高校(1990〜1992年)・青山学院大学(1993〜1994年)・横浜フリューゲルス(1994〜1998年)・横浜F・マリノス(1999〜2000年)・東京ヴェルディ1969(2001〜2004年)・ヴィッセル神戸(2005〜2007年)にてプレーをする。現在、横浜FC(2007年〜)に所属。

三浦淳宏ATSUオフィシャルブログ:http://www.diamondblog.jp/atsu/
横浜FCホームページ:http://www.yokohamafc.com/

 横浜FCのクラブハウスで食事をするときは、いつも後輩選手を相手に冗談を言ったり、相談相手になっていたり、まさにその姿は“兄貴!”という風格。今回のインタビューも、隣りに若手選手を従えて、色々なメッセージをその選手と私、そしてこのコラムをご覧の皆様に伝えてくださいました。
 強くなるため、そして強くあり続けるためへの探究心と身体のケア、そして周りへの気配り。全てを実行しようと思うと、なかなか出来ないことではないでしょうか。
 皆さんは、何から真似してみますか?

1.昔も今も、起床は5時!


 高校時代は寮に入っていて、寮の食事は、小嶺監督の奥さんが全部考えて作ってくれていたんです。皆は寮で朝食を食べていたけど、僕は5時に起きておにぎり作って、自主トレをしに人より早く出かけていたのね。

 6時から1時間自主トレをして、その後7時15分から1時間ちょっとの全体朝練習!!
 トレーニング終了後、着替えて、持って行ったおにぎり3つを、授業が始まるまでの時間に食べていた。

 昼食は、寮弁というのがあって、寮生用のお弁当が用意されていたので、それを食べていた。

 夕方の練習後は19時30分までみっちり。そのくせ、寮の門限が20時なので、練習終了後、自転車にまたがり、猛ダッシュで帰る(ある意味トレーニング)。そして、夕食を食べてお風呂に入り、疲れ果てて寝る。高校時代はその繰り返しだった。
 ご飯は3食をきっちり食べていた。毎日がハード過ぎた為、それ以上の回数、間食などを食べる時間がなかった。

 厳しさは半端じゃないよ。だって3年間の高校生活の中で、休みがたったの1日半!全体の休みが3年間で1日半だよ。信じられないよね。きつかったな。(苦笑)
 寮で夕食を食べて風呂に入った後、皆でちょっと喋っていても途中で眠くなっちゃってね。しかも朝5時に起きないといけないから、夜はすぐに寝ちゃうよ。

 今も毎朝5時に起きるよ。
 起きたら、ミストサウナと水風呂を交互に入る。交代浴すると縮まっていた筋肉とかがギューっと伸びて良いんだよね。これはプロになってから始めたよ。
 キャンプに行っても、朝から半身浴と水風呂を交互に入るのは欠かさない。その後、身体のケアを1時間位してから朝食。
 
普段は自宅を8時に出発、練習がだいたい10時から。

河谷のコメント:
 朝早く起きる・おにぎりを作る… vs 朝たたき起こされる・朝食を食べずに慌てて学校へ出掛ける…
 強くなりたい気持ちが強ければ、何をしたら良いのか?何からしたら良いのか?
 子供達を育てる親御さんやコーチであれば、朝が苦手な子供達に“朝5時に起きて、ちょっとジョギングして朝ごはんを食べると、人より強くなるよ。”と伝えてあげたら子供達は実行したくなるかもしれませんね。
 “早起きは三文の得”
 朝を有意義に過ごすためには、夜にテレビの見すぎやゲームをしてはいられませんね。
 夜を少しでも早く寝ることが、朝を有意義に過ごすことにつながるのか?
 朝にちょっと体操することなのか?      朝食を食べることなのか?
 食事の面から、お伝えすると…
 朝食をいっぱい食べるだけで、体格が変わる選手も多いんですよ。

2.栄養素は食事(食材)から。


 朝食のパターンには和食か洋食がある。前日、妻に『明日の朝は、○○が食べたい。』ってリクエストするんだ。(化学調味料は使用しない。ドレッシングも自家製とこだわっている。)

 和食だったら、ご飯・納豆・焼魚・味噌汁・フルーツ 
 洋食なら、トースト(1.5枚)・スクランブルエッグ・スープ・ヨーグルトフルーツって感じ。普通のどこでもあるような朝食だよ。今日は、洋食だったな。
 最近は野菜の中でも、トマトを意識して食べているな。

 やっぱり食事のバランスに気を遣っているよね。
 ホテルでバイキングなんかでも、ざっと料理を見て、これよりこっちが良いなみたいに選んでいるよね。

 勿論、疲れ果てて食べれないこともあるよね。でも、“野菜が足りてないな”とか“お肉が食べたい”など、自分の身体の声を聞いて欲しがるものを食べようと気を遣うよね。

 そういうのって、プロに入ってから栄養士さんとかからの色々な情報が頭のどこかに入っていて、身体が反応するようになったんじゃないかな。
 頭のどこかで“○○を食べなきゃな。”とか“試合前は、炭水化物をとらなきゃ。”などと考えるよね

 基本的に栄養はサプリメントではなくて、食べ物からとろうとしているよ。サプリメントを信じていない訳ではないんだよ。でも、食べ物からとりたいって思ってる。

 食事の影響って大きいなって思うようになったのは、特に結婚してからかな。
 結婚してから、体重の増減がホント少なくなった。
 若い頃は、食べるときはとにかくたくさん食べる。夏場とか暑さと疲れで食べることができなくなるときなんかは、食欲があまり無くて食べる量が減って体重がグーッと減るということがよくあった。

 今は、毎日体重計に乗ることでチェックしているということで体重が大きく増減しないように食事は勿論、気をつけているよ。自分のベスト体重は、年齢によって勿論変わるよ。(現在、身長175cm 体重74kg)
 30歳過ぎたら、若い頃よりも新陳代謝が違うから太りやすくなる。若い頃はいくら食っても増えないけどね。30歳過ぎたらホントに気をつけないとと思うよ。

 食事のバランスがやっぱり大切かな。
 僕の場合は、妻が色々調べてくれているから、家での食事は油をなるべく使わないようにしてくれたり、使う油の種類に気を遣ってくれたりしてくれている。
 だから自分では、外食をするときに特に気をつけるよね。“ちょっと、しょっぱいな。”“油っこいかな?”とか気になるよね。妻のおかげで、特に食事について気になるようになったよね。
 食事に気をつけるようになってからは、“体力の回復”や“怪我の回復”に違いが出たように感じたよ。

 結婚前は、焼肉行ったら高級なお肉が良い肉と思っていたから、全部“特選”を頼んでいたよ。(笑)今は“特選”は脂っぽくて食べられないよ。『カルビやロースで、脂の少ない所をください。』って注文するよ。若い頃とは違って、今は量はいらなくなったな。ちょっと、カルビ食べて、タン塩を食べれば充分って感じ。
 28歳で結婚したんだけど、良いタイミングだったよ。もし、結婚してなかったら、極端に痩せたり・太ったりし続けていたと思うよ。(笑)

 身体を作る上で食は重要だから、子供達は食材から極力栄養をとる事がベストだよね。それにはやっぱり、ご両親の協力が必要だと思う。

 今は、昔に比べて便利だよね。
 食事に関する情報でも何でも、聞けば教えてくれるし、色々な情報が僕らの時代と違って溢れているじゃない。
 僕が初めて栄養士さんの話を聞いたのは、プロ1年目のフリューゲルス時代。
 そのとき、『こういう食べ物が、炭水化物。これはたんぱく質。これは鉄分が多い。』みたいなちょっとした知識を教えてくれた。
 “鉄分が少なかったら、ほうれん草・レバーを食べる。”という位の情報は、何かで見たことがあって覚えていたけど、意識してそれを実行していたかというと、そうでもなかった。それまでの知識と栄養士さんの話を照らし合わせていたかな。
 そして、プロになってからホテルとかのバイキングで、自分で考えて選んで食べるようになったかな。

河谷のコメント:
 健康であるためのバランスの良い食事とアスリートにとってバランスの良い食事は、必ずしも同じではありません。ただ、健康であるためのバランスの良い食事なくしては、アスリートにとってのバランスの良い食事は成り立たないと言っても良いでしょう。
 アツ選手のように、身体の声が聞こえるようになるには、きちんとした食習慣を身につけてこそ聞こえてくるものだと感じます。
 ジュニア期であれば、サプリメントをとると何だか安心という習慣を身につける前に身につけるべき食習慣や生活習慣があるのではないでしょうか?
 自然に、“今日は○○を食べよう”と考えられるようになると格好良いですよね。

3.マラドーナを一所懸命真似したよ!

 縁起かつぎっていうか儀式みたいなもんがあって、グラウンドに入る時は必ず左足から入る。
 いつから始めたか、どうしてそうしているのか分からないんだけど、何かそうしている。
 たまに、何も考えずに右足から入りそうになったときは、バランスを崩しながら左足から無理やり入ったり、グラウンドに入りなおすこともある位。(笑)
 始めたのは、プロに入ってからだったかな〜。誰かの真似をだったかな・・・。

 あ!マラドーナかもしれない!!

 大好きでね。若い頃って、そういう憧れの選手って必要だよね。
 その人のプレーを真似るって大切だよ。
 マラドーナのビデオテープを借りてきて1つにまとめて、テープが擦り切れるほど毎日見てたよ。
 親が『また見てるの〜』『淳宏、またテレビの前にいるよ。』なんて、顔をしかめてた。眠くなるまでず〜っと見てた。

 今は、サッカーの情報番組が溢れているけど、僕の頃はダイヤモンドサッカーっていうのしかサッカー番組がなくて、海外のサッカー情報をそこから得ていた。
 今は、テレビだけじゃなくてDVDはあるし、スカパーやWOWOWはあるし。本当に恵まれているよね。

 強くなるために、身体能力とかセンスというのも必要だけど、自分を向上させるための情報を得てそれを活かすのも大切だよね。僕の幼い頃とは違い、今は情報社会だから、それを上手に活用し、上を目指していかれると良いよね。

 僕は、小学校3年生の10月からサッカーを始めて日本代表としてプレーもでき、今もこうして現役として第一線で頑張ってやっています。
 今の子供達は僕の時代よりも、もっと幼い頃から始めて、恵まれた環境の中で練習が出来ていると思う。だからこそ、もっともっと上手くなれる可能性を秘めていると思うので、最大限に活かして素晴らしい選手になってね。そして、ご両親への感謝の気持ちを忘れずに。人間的にも温かみのある心優しい大人になってね!!

河谷のコメント:
 強いアスリートになるために、トレーニングを惜しまないことは勿論大切ですが、それだけでは十分ではないのでは?というアツ選手の意見に賛成です。憧れのアスリートや先輩を“まず真似てみる”そして、自分のものにしてみる。そのための情報収集や観察力はトレーニングに匹敵する位、大切なものかもしれませんね。
 まさに“好きこそ、ものの上手なれ”ですね。

4.頭を使おう!そして自己反省も大切。

 考えて練習やプレーすることが大切。ただ単純に走ったり、蹴ったりしていてはいけない。
 幼い頃から、考えながら技術を習得することが大切なんじゃないかな。
 そしてその技術をどう活かすか、ここのポジションではどういうプレーが求められているのか、考えながらプレーすることが絶対大切。頭の良い選手はやっぱり生き残るよ。

 そうでないと行き詰った時に、何も出来なくなっちゃうよ。
 常に自分で考えているアスリートはスランプになりにくいんじゃないかな。

 小さい選手もいれば、大きい選手もいる。脚の長い選手もいれば、走るのが遅い選手もいる。色々なタイプの選手がいる中で、プレーをするんだから頭を使わなきゃね。
 脚の遅い選手が早い選手に、どう立ち向かって勝つのか?やっぱり考えるでしょ。だから頭が良い選手が勝つんだよ。“相手のタイミングではなく、自分のタイミングにしよう。”“相手の身体をこっちに向くようにして、その逆をついていく。”などと考えるのがサッカーの面白いところなんだよ。色々考えて上手くいったときは、すっごく嬉しいよね。ただ走ってちゃダメだよね。

 そういう意味で、スペインサッカーは面白いよね。イングランドやイタリアは、自分の良い所を出すというプレースタイルではなくて、相手の良い所を無くそうとするスタイル。考え方が国によって違うんだよね。
 相手の弱点を知って自分達がどう攻めるのと、相手の強さを知って自分達がどう守ろうというのでは、全然タイプが違うんだよね。
 スペインサッカーは一歩先を行っているよね。自分達からアクションを起こしている。そこが面白いんだよ。

 あと僕は、いつも周りの人に気を配るようにしているかな。小中高とずっとキャプテンだったからか人の気持ちを考えちゃったり、気になったりするんだよね。そういうことって、別にやらなくても良いことかもしれない。
 でも気になるから、相手の個性によって、声をかけたり食事に連れて行ったりフォローをするようにしている。食事の場って、コミュニケーションの場でもあるよね。

 家に帰っても、“あのような伝え方・言葉で良かったかな?”などと自己反省をするんだ。
 妻もサッカーをしていたから、よくこういう相談をするんだよね。そうすると、すぐ気持ちを分かってくれて『こうしたら良いんじゃない?』などとアドバイスをしてくれる。
 だから、毎日が自己反省ですよ。そうしていくうちに、次第に周りへの気遣いが当たり前になるんじゃないかな。
 相手のことを知って、1つでも心のこもった思いやりのある良い言葉をかけてあげられたら良いんじゃないかな。人と人が理解しあうためには言葉が大切。だからその言葉がけを大切にしたいと思う。
 言葉がけによって、やる気が出たり、持っている力を最大限に活かすことができたり、チーム力がアップするんじゃないかな。
 自分がされたり言われて嫌な事は、人にはやらない。そして、どういう言葉をかけたら、前向きに頑張ることができるか?気持ちが楽になることができるか?…等々、相手の気持ちを真剣に考え大切に思えば、さらに上の考えができるようになるんじゃないかな。人への優しさって大切なんじゃないかな〜と思う。

河谷のコメント:
 たとえ失敗しても、考えながら行動していればスランプは短く済むようにも思います。もしくは、失敗した時の経験を次に活かして成功へと結び付けられるようにも感じます。
 だから“ピンチがチャンス!”なのでしょう。
 そしてピンチでどうしようもない時、人から声をかけられて気持ちが救われて楽になった経験は誰もがお持ちなのではないでしょうか?アツ選手のこのような気遣いは素晴らしいなと感じます。
 アスリートを支える者として、食事の場が選手同士の良いコミュニケーションの場になるような雰囲気作りに貢献したいと痛感します。

 自分への厳しさと人への優しさ…さらりとやってのけているアツ選手は、本当にプロだと感じました。
 高校時代は監督の奥様である寮母さん、現在は奥様の支えがアツ選手のサッカー人生の一端を支えているとも言えるのではないでしょうか。そこにはアツ選手のサッカーに対するひたむきな姿があったから。
 ジュニア期であれば、周りの大人が何でもやってあげるのではなく、考える選手(子供)に育てることが強い選手になる秘訣なのかもしれませんね。
 アツ選手、とっても良いお話をありがとうございました。そして、これからも宜しくお願い致します。



河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕
1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業
1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業
1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)
2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。