トップアスリートに聞く食事学 Vol.13



2010/06/29




河谷 彰子

神野 卓哉(じんの たくや)

1970年6月1日生
埼玉県草加市出身
元日本代表FW。高速ドリブルからの突破とふところの深いポストプレーが持ち味。若いアスリートからベテランアスリートまで人望があり、選手からは良き兄貴分。財団法人日本サッカー協会公認 B級ライセンス所持。
2004〜2009年 横浜FCの強化担当。
現在、株式会社オンゼ 代表取締役。

株式会社オンゼ ホームページ:http://www.onze-inc.co.jp

 アスリート時代の話から学生時代の話し、そして、一流と呼ばれる選手に共通して感じることなどを伺いました。選手生命の長い強いアスリートは、スポーツの技術と合わせて、高いコミュニケーション能力が大切なようですよ。

1.高校時代、朝食は3回、1日7食食べていた!

 高校時代の体型は、180cm・体重63kgと本当にガリガリだったんです。でも、食事量は周りの友達と比べてもとっても多かった。監督には『まだ食べるの?』なんて言われていた位。

 朝食は家でご飯・味噌汁・納豆・玉子焼きと軽く食べて、学校へ行く途中でパンやおにぎりを食べる。そして朝練後には、お昼用に持ってきた1リットル近くあるお弁当を早弁して、昼食は学食で定食を食べる。午後練の前には購買部でパンと牛乳を買って食べて、練習後に立ち食い蕎麦屋で蕎麦食べて、家で夕食…みたいな感じでした。そう考えると、1日7食も食べていたんですよ。とにかく、たくさんの量を食べていました
 練習後に監督が食事に連れて行ってくれるときは、定食+炒飯というように、とにかく食べていました。

 25歳位までは、どんなに食べても筋肉が思うようにつかなかったんです。筋力トレーニングとかも、たくさんやっていましたけど、全然筋肉がつかなかった。You Tubeに高校時代の私が映っていますが、驚きの細さです!!

 食事は誰に言われるでもなく、お腹が空いたから食べていて、ある年齢になった時に食事について学んだんです。その時に、『あ!良いことやっていたんだ…』って初めて分かりました。スポーツ栄養に関する情報が世の中に色々あるのに、今の若い子達は、分かっていてもやらないのか、やれないのか・・・。食事の量が少ないのが気になります
 そして、規則正しい生活を送って欲しいと思います。

河谷のコメント:
 朝食を食べていない、もしくは食べる量が少ないことが色々と問題となっていますが、神野さんの高校時代の朝食を色々なアスリートに見習って欲しいなと思います。
 ジュニア期のアスリートの中には、朝食もほとんど食べずに、サプリメントを飲んでいるという方もいらっしゃいますが、きちんと食事を食べた上でサプリメントを摂ることの意味があるということを再認識して欲しいなと思います。
 『ご飯・味噌汁・納豆・玉子焼きの朝食は、軽い朝食』という神野さんのコメントを聞き逃して欲しくありませんね。

2.今の子は、体力のベースが違う。

 今じゃ考えられない位、練習はしていました。とにかく運動量は多かったです。
 
今の子供達の想像を絶する位よく走りました。夕方の練習は、とにかく走る練習です。
 
夏の合宿では、朝食前に10km走って、食事後の午前錬で2時間走る。そして午後は筋トレ。ナイターの練習でやっとボールを使った練習。本当によく走りました。

 今は公園がないとか、遊ぶ環境が違うということもありますが、昔と今では子供時代の体力のベースが違うように感じます。体力のベースの決め手は、子供の頃にどの位遊んだかということ。幼い頃にたくさん遊んでいれば、体力のベースが高いですが、今の子供は遊ぶ量が少ないから体力のベースが低いように感じます。
 だから、日本のスポーツを底上げするためにも、“小さい頃から、外で元気に遊ぼう!”木登りや鉄棒をして元気に遊ぶ!ここが大切なんじゃないかなと感じます。

河谷のコメント:
 体力のベースは、幼い頃からの遊びにある!確かにその通りですね。
 食事のベースは、幼い頃からの食習慣にあると感じます。
 強いアスリートになるためには、幼い頃からの生活習慣が大切ということとなれば、子供自身というよりも、その親御さんやコーチからの働きかけが大切になるということになりますね。

3.色々な人に自分から話しかけよう!

 選手時代から感じていたことですが、コミュニケーションはやっぱり大切ではないでしょうか。
 食事の場は、コミュニケーションをとれる一番簡単な場所だと感じるので、食事時間や食事場所は大切にしたいと思う。

 元々、私は人とのコミュニケーションは、苦手なんです。だから、練習後にホテルやクラブハウスで食事をしていても、さっさと食事を終わらせて、その場を去りたいほうです。チームの中で年齢がある程度上になったときは、チームにいる18歳の新入り若手選手には、全然話しかけたりしませんでした。でも、自分を変えることにしたんです。

 コミュニケーションが大切だなと感じるきっかけは、“指導者を目指してみよう”と思った時でした。練習時の会話だけで自分の事を分かってもらうのは難しいし、受け入れてもらえないこともあると感じたんです。そういう経験をきっかけに、自分を変えたんです。自分の事を分かってもらいたければ、話しかけないとって。そう感じたときから、積極的に若い選手にも話しかけるようになりました。

 チームでキャンプやアウェーに行った際のホテルの食事では、だいたい丸いテーブルを囲んで食べるんですが、そういう時って仲の良い選手同士で座ってしまいがち。それを意識的に違う選手の所に座るとか、いつも違う所に座るように変えたんです。そうすることで、自分から色々な選手にコミュニケーションをとるように変えたんです。

 代表を経験しているアスリートや長くアスリートを続けている方は、特にコミュニケーションをとるのが上手です。だから、食事会場の雰囲気はホントに大事だと思う。
 会話をすることは相手を知る・自分のことを知ってもらうことにつながり、サッカーの話をする時も自分が伝えたいニュアンスが伝わりやすい。
 例えば、年の離れたお互いを知らない選手同士でサッカーの話をしたら、若い選手は“なんであの選手に!”とか“何言っているか、分からない!”なんて誤解を生みかねないんです。お互いを知っていれば、“あの選手は、こういう性格だから、●●って言おうとしているのかな?”などと解釈しやすいのではないでしょうか。

 私は、食事の場で色々な選手と話をするようになってからは、変な誤解やわだかまりが少なくなった気がします。
 選手の席が狭くてあまり空いていなかったら、監督の隣でも平気で食事をします。とは言っても、監督の隣にはなかなか座りづらいんですよね。でも、“隣良いですか?”って言われて、監督は“ダメっ”て言わないんじゃないかな。
 色々な選手が、色々な選手と食事しながら会話するのは勿論、監督やコーチとも気軽に話しができるようになると良いと思います。
 どんな人とも、話さなきゃ相手を知る事は出来ないし、自分を知ってもらうこともできない。メールだけじゃお互いのことを理解しづらかったり、微妙なニュアンスは伝わりづらいんじゃないかなと思います。

河谷のコメント:
 何気ない会話の中でできる会話やコミュニケーションがチーム力をアップさせるのではないかと思います。
 横浜FCの選手の中には、年が離れている選手でも熱心に話を聞いてくれたり、話をしてくれたりと年上の選手が年下の選手へ話しかけるという光景をよく目にします。
 年が離れていると、どうしても話しかけづらいですが、食事の場は、その壁を低くしてくれるように感じます。
 あるチームのコーチに“何故、チームに栄養士はいないのか?”と質問したところ、“食事は楽しみの場でもあるから、栄養士はいらない”と言われたことがあります。『栄養士=食事がまずくなる』というイメージは、誰が作ったのか???このイメージを何とか払拭したい!栄養士である私にとっても、大きな課題と言えそうです。

 食事は、アスリートの身体を作る大切な要素ですが、それ以上の役割があるということですね。
皆さんの食事環境は、何を大切にしていますか?



河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。