トップアスリートに聞く食事学 Vol.15



2010/07/27




河谷 彰子

近藤 愛(こんどう あい)

1980年11月5日生
東京都八王子市出身
セーリング選手(スキッパー)
北京オリンピック出場(2008年)。
クルージングを趣味としていた両親の影響でヨットを始める。ヨット1日体験に参加したことをきっかけに(小学校3年生)、神奈川県葉山町のジュニアヨットスクールに通いはじめる。一方、3歳からピアノも習う。高校は、国立音楽大学付属高等学校。大学は、日本大学生物資源科学。
大学時代は全日本学生女子選手権3連覇。2006年世界選手権で準優勝。2007年全日本470級ヨット選手権大会で史上初の女子組による優勝。2008年6月ドイツで行なわれた五輪前最後の国際大会でキール・ウイークで優勝。
現在は、ロンドンオリンピック出場に向けて、日々トレーニングに励んでいる。
現在、アビームコンサルティング株式会社所属。

アビームコンサルティング株式会社内“Team ABeam”ホームページ: http://jp.abeam.com/teamabeam/

 リラックスの時間をどのように過ごすかは人それぞれでしょう。アスリートも同じですが、近藤さんのリラックスタイムはかなり充実しているようですよ。

1.日本でのリラックスタイムにはピアノを弾いています。

 習い事としてピアノを3歳から、ヨットを小学校1年生からずっと続けていたんです。中高はピアノで学校に行って、ヨットは趣味で続けていたんですけど、ヨットの方が得意というか、ピアノよりもっと上を目指せるなって感じたんです。
 ピアノをこのまま続けてピアノの先生やピアニストを目指したい訳でもなかったですし、この先、自分は何をやりたいのかということを考えた時に、ヨットで日本一や世界一を目指す方が自分には合っているんではないかと思って、大学は日大のヨット部に入ることに決めたんです。

 今では、ピアノはリラックスするための趣味の時間になっています。日本に帰ってきたときで時間のあるときにはピアノを弾いてますよ。

 逗子は一応ホームポートですが、そこで練習することは年間を通じても、1ヶ月いるかどうかという具合で、とても短いです。ヨーロッパに丸々3ヶ月。その他は、日本各地での遠征。冬は寒いので沖縄に2ヶ月位。ほとんどどこかに行っているって感じです。

 丸1日の休みという日がないので、遠征先では毎日緊張の連続なんです。ちょっとの合間に気分を変えるために、一人でカフェに行ったりします。それ位しか、リラックスのためにしていることってありませんね。

 フランスやイタリアはコーヒーが有名なのでコーヒー好きの私にとっては嬉しいです。各都市で、一人でカフェめぐりをしてコーヒーの味を楽しんでいます。フランスだと、お菓子も美味しいので、ちょこっと食べながらコーヒーを飲むのはさらに楽しいです。

河谷のコメント:
 短い時間でも上手にリラックスできる選手は気持ちの切り替えが上手だなと感じます。リラックスできる時間や場所を持つことは、大切なことの一つですよね。
 横浜FCの選手の中には、お気に入りのmyコーヒーメーカーを遠征先に持って行って、食後のコーヒータイムを楽しんでいる人もいる位です。

2.遠征先の夕食はみんなで料理!

 普段の食事は、朝食には、オールブランにヨーグルトとハチミツをかけたもの、それにサラダです。日本でも、毎日これを食べています。
 オールブランを食べるようになったきっかけは北京オリンピック前の減量でした。体重を57kgから54kgに減量をしなければいけなかったのですが、もともと便秘症ということもあって、食物繊維の多いものを食べようと選びました。
 今でも食べる習慣を続けています。これがないと身体のリズムがとれない感じです。

 昼食は、休み時間がトイレも含めて20分しかないのでパパパッと船の上で食べることができるメニューにしています。おにぎりや現地で買ったパンに何かをはさんでサンドイッチにして食べたりしています。

 遠征先の夕食は、基本的にコーチを中心にチームメイト5人で一緒に作ります
 大量のお米・カレールー・ハヤシライスのルー・お好み焼きの粉などの食材や、炊飯器・各種調理器具を事前に船と一緒に日本から運んでおきます。バーベキューセットもある位で、キッチンセットは何でもそろっているんです。
 行った先で野菜を買って、ちゃんと料理を作ります。
 あまりレパートリーは無いんですが、5種類をローテーションさせて作っています。そして、たまに自由デーといって自分で好きなものを買ってきて作る日もあるんです。

 5つのローテーションは、カレー⇒ステーキ⇒ハヤシライス⇒バーベキュー・鍋料理(野菜やキノコが豊富な国のみ)という感じです。どれも無難に美味しいんです。今まで生姜焼きとか肉じゃがとか、色々作ってみたんですけど、やっぱり5つのメニューに戻るんですよね。
 ローテーションメニューはご飯中心なので、私は自由デーにパスタやうどんを作ることがあります。

 カレーは大量に作って、1日目:普通のカレー 2日目:カツカレー 3日目:カレーうどん というようにアレンジして3日間食べるんです。
 このカレー、ただのカレーじゃないんです!
 “ABeam(アビーム)カレー”って名づけているんですが、野菜たっぷりのものすごく凝っているカレーなんです。小松コーチ監修のとっても美味しいカレーなんですよ。

 玉葱をスライスするのは、なぜか私が担当なんです。皆は涙が出るからイヤだって。私は出ないんですよね。
 出来上がりまで4時間もかかるこだわりようで、よくレース前に作って食べるんです。コーチがずっと鍋の前にいてくれて、味見をしながら混ぜているんですよ。
 
あるクルーの選手なんかは、身体を大きくするために3日間、朝・晩カレーを食べていますよ。

 ハヤシライスも凝っているんです。玉葱は8個も使うし、牛肉1.5kg・トマト10個・マッシュルームは日本のパックで4パック位!!
 海外では肉はだいたい塊で売っているので、それをなるべく薄くスライスするんです。その係はチームメイトの男性って決まっているんです。肉多めの美味しいハヤシライスです。

 これだけ大量のカレーやハヤシライスを作るから、日本から持っていく食材が大量になるんですよね。

 海外では、このようにお肉中心のメニューです。自由デーにサーモンを買ってきて料理することもあるんですけど、肉を多く食べるのでバランスをとるために、必ず朝晩はサラダを食べるようにしています。だから、日本にいる時は、魚を多く食べるようにしています。
 栄養が不足している感がないから、サプリメントは飲んでいないです。周りのみんなも飲んでいませんねぇ。

 たまに大学生と練習をすることがあるのですが、食事量が少ないなと感じることがあります。お米をあまり食べないのに、ご飯前後にパンやお菓子を食べているので、お米をもっと食べれば良いのにって思います。旅館で出された朝食も残していて、体力持つのかな〜って思います。
 『これ食べれな〜い。』『これ嫌〜い。』とか言っていて…。普段、何を食べているのかな?なんて感じちゃいます。
 しっかり身体を作るには、それなりにちゃんと食べた方が良いのにって思います。

<ABeamカレーの作り方>
1. 手羽先を塩胡椒で下味をして、焼く。
2. トマトを湯むきする。
3. 玉葱を全てスライサーでスライスする。
4. 3を2回に分けて、茶色になるまで1時間ほど炒める。
5. 人参・セロリ・生姜・トマトをミキサーでドロドロにする。
6. 鍋に1・4・5と皮を剥いただけのニンニクを切らず入れ、水を入れずにルーを入れて、3時間ほど煮込む。(野菜からの水分で十分)
コンソメ・塩・胡椒・ソース・ケチャップなどで味を調整する。
“ABeamカレー”
大鍋1.5杯分の材料(15食分以上)

鶏肉(手羽先) 大量
人参
玉葱  12個
セロリ 1株(約8本)
生姜
トマト 8個
ニンニク 1塊
りんご  2個
カレールー・コンソメ・塩・胡椒・ソース・ケチャップ等

河谷のコメント:
 4時間もかけて作るアビームカレー!水を一切使わず、野菜の水分で煮込んでいるところもかなり美味しそうですね。是非作ってみたくなりました。
 トレーニング中の昼食が船の上というのには、正直驚きました。“Team ABeam”ホームページにある動画に、その風景がチラッと映っているのですが、かなり高い波の中で揺られながらの昼食タイムでした。これにはさらに驚いてしまいました。

3.集中力とリラックス。

 午前中の練習は9時半〜12時。20分の休憩後すぐに、午後の練習再開。海から上がるのは16時位。だから、集中力が途切れないように練習中は頑張ります。集中力を切らさないようにするために飴を食べることもあります。
 
セーリングは風が無いと出来ない競技なので、朝に風が無いと1日陸や海で待っているんです。だから、できるだけ長く練習ができるように、練習ができる環境では長く集中力を保つ必要があるんです。
 甘い物特にチョコレートが好きなので、食べ過ぎには気をつけています。食べてもご飯後に食べるようにしています。

 食事の時間はとっても楽しいです。
 小松コーチは、とても食事作りにも食べるのにも時間をかけるんです。『1日ほとんど海にいて、海外遠征が多い中、楽しみと言ったら食事位しかないだろ。だから美味しいもの作って食べるという時間が大事なんだ。』っておっしゃるんです。だから食材にもこだわるんです。
 私は小松コーチに出会うまで、ご飯はパパパッと食べて、休む時間を作りたいと思っていたんです。でも、食事にそれだけ時間をかけるようになって、食事の大切さというか、食べながらは勿論、作りながらも話しをしたりとコミュニケーションの大切さや楽しみができました。身体を休める時間は少なくなりましたが、逆に心にゆとりができるようになりました
 ヨーロッパにずっと5人で一緒にいて、一人の時間も欲しいですけど、みんなで料理して美味しいものが出来ると嬉しいですし、ヨーロッパ式に食事を3時間位かけながら、皆でヨットの話をしたりというような時間の使い方が好きになりました。これは、小松コーチのおかげです。

河谷のコメント:
 食事そのものも大切ですが、食事時間を楽しく過ごす工夫をしていらっしゃるのは、とっても素敵なことですね。料理の連携プレーは、チーム力にも影響するのではないかなって最近感じます。Team ABeamの料理風景をちょっと覗いて見たい気持ちになりました。

4.チームメイトとのコミュニケーションは欠かさない!

 5人でずっと一緒にいれば、お互いに機嫌が悪いことだってありますよ。そんなときには、お互いにほっとくことにしています。でも、競技中は別。伝えたいことはちゃんとパートナーに伝えます。言わなくてもわかるだろうっていうのではなく、できるだけ自分の思いや考えていることを口にして、コミュニケーションを怠らないようにしています。ヨットの上は、ヨットの上です。
 今まで色々なクルーと一緒に組んできましたが、そういう面で失敗してきたこともあるので、コミュニケーションの大切さというのは痛感しています

 意見が食い違ったときは、基本的には私は従うようにしています。性格的に言い返せないんですよ。周りには言ったほうが良いよって言われるんですが、言ったことで、その場をギクシャクさせたらと思うと・・・。だから、一度飲み込んで、自分の中で消化することにしています。そして消化できなかったら、他の人に相談してみたりとかしています。

河谷のコメント:
 しっかりコミュニケーションをとることは、本当に大切ですよね。
 スキッパーとクルー、お互いの考えを常に確かめながら2人の息がぴったり合った時に、最高のパフォーマンスを発揮することができるのではないでしょうか。
 運転免許の取得講習の時に“だろう運転はいけない!”と言われたことがありますが、チームメイトと勝利を掴む為には、“だろう運転”では十分な力を発揮出来ないという事ですね。

 休養には、睡眠のような身体そのものを休める方法と、ストレッチなど積極的休養がありますが、近藤選手のお話しを伺って、積極的に上手にリラックスをしているように感じました。それは、一人のリラックス方法もありますが、一緒に戦うチームメイトと時間を共有してリラックスをしていらっしゃるからです。強さの秘密はここにもあるのではないかと感じます。小松コーチにもお話しを伺ってみたくなりました。
 皆さんの積極的リラックス方法は、どのような方法ですか?


河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。