トップアスリートに聞く食事学 Vol.16
2010/08/10
河谷 彰子
玉ノ井 康昌(たまのい やすまさ) 1973年9月8日生 オービックシーガルズホームページ:http://www.seagulls.jp/ |
教えてもらわなかったから気づけなかった事、教えてもらったから知った事、そして気づけるように仕向けてもらった事。より強いアスリートになるためには、様々なチャンスとそのタイミングが大切なのかなと感じるお話しでした。
1.大学時代、先輩が食事の大切さを教えてくれた。
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中学時代は野球、高校時代はハンドボールをやっていたんですが、当時は体重コントロールもないし、食事についてはお腹が空いたら食べるという感じで、食事について、実は何も気にしていなかったんです。
高校時代も朝食は食べず、昼食は学食、夕方の練習後にスナック菓子とジュース飲んで、帰宅後に夕食を食べるみたいな生活…。
練習後のジュースには着色料で真緑のメロンソーダ!メロンソーダあれが身体に良くないってことを知ったのも大学入ってから。
アメフトを大学時代に始めたんですけど、軽〜い気持ちから。
理由は、あんまり言いたくないんですけど・・・。
実は行きたい大学に行けなくて、大学に通う理由を作らないと学校を辞めちゃうなって思って、何か始めようと思っていたところをアメフト部から勧誘されたんです。その時、東京ドームでの試合ビデオを見せてもらったんです。“学生なのに、ドームで試合ができるんだ”“格好良いな〜”“ちょっともてそうだな〜”なんて思ったことがきっかけなんです。
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学校内にお湯まで入るインスタントラーメンの自販機があって、ある寒い日の練習後 “身体が温まるしお腹も満たせる”と思ってカップラーメンを食べていたんです。すると先輩に“筋肉を付けるのにカップラーメンとかは良くないから止めろっ!”て注意されたんです。あの日の事は鮮明に覚えていて、未だにカップラーメンはあまり食べないです。
今から思うと、あの時先輩に教えてもらって、本当に良かったと思う。
河谷のコメント: ちょっと、恥ずかしそうに練習後にスナック菓子やジュース、そしてカップラーメンを食べていたことをお話ししてくださった玉ノ井さん。 もしかしたら、ジャンクフードと分類される食べ物は食べすぎたら良くないということを、それまでにも誰かに言われていたかもしれませんね。それが大学時代のある時に、ストンと心の奥に届いたのかもしれません。 さぞかし、説得力のある先輩がアドバイスしてくださったのでしょう。もしくは、玉ノ井さんの強くなりたいという熱い気持ちと、先輩のアドバイスのタイミングが絶妙だったのかもしれませんね。 アドバイスする側としては、タイミングを待つか、もしくは作り出すか…いずれにしても、より早い時期に正しい食習慣を身につけてもらえるようにしたいところです。 何故、カップラーメンなどが良くないのか???理由を知ると食べたくなる頻度は減るかもしれませんね。(勝てるアスリートの食事学Vol.11参照) |
2.身体を大きくするためのウエイトトレーニング、そしてその後の食事を大切にした。
高校時代、ウエイトトレーニングはやったことがなかった。
大学で先輩と自分の体格を比べると、自分はヒョロッヒョロッな体格。身長178cmで、大学入学当時の体重は64〜5kgで卒業時は74kg。大学時代に約10kg体重が増加できたのは、ウエイトトレーニングと食事のおかげ。
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ウエイトトレーニングは自分で決めて実施していましたよ。
入学当初には、ベンチプレスは40kgしか持ち上げることができなかったのが、すぐに60kgを持ち上げることができるようになったんです。
トレーニング方法は、主にビック3と呼ばれているベンチプレス・スクワット・デットリフトをアメフトのトレーニング後にローテーションでやっていた。
ウエイトトレーニングは、もともとあまり好きじゃなかったんだけど、練習を重ねている内に身体が変わってきたり、持ち上げられる重さが変わってきたりと、トレーニングをした分だけ身体に変化が現れてくるのが面白くってちょっとずつ続けるようになった。
筋肉が付けば、それと同時に体重も増える。
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先輩に、ウエイトトレーニング後は筋肉を修復するのに高たんぱく・低カロリーの食事も大事だって言われた。それには、トレーニング後にはとにかくツナを食べるのが良いって言われたんだ。ツナ缶の油はよく切って、ご飯やパスタと合わせて食べたら良いぞって。
今でも筋肉を増やしたい時には、ウエイトトレーニングをして、その後にたんぱく質を多くとるようにしようかな〜と考えて食べるようにしています。
そして、食べるタイミングも大切。
トレーニング後、弁当屋へ行ってすぐ食べるみたいな感じで、トレーニング後なるべく早いタイミングで食事をとる習慣をつけました。
周りの影響もあってプロテインは、大学3年頃から少し取り入れるようになった。
僕のポジションは、比較的走るポジションだからあまり筋肉とか体重を増やさなくて良いんですけど、ライン(最前線のポジション)は、僕位の身長でも100kg位にしないといけない。そういうポジションは、食事だけではどうにもならない所もある。僕の周りにいた選手は、食事量を増やしつつ、プロテインを飲んだり、卵の白身だけをひたすら食べている選手がいましたよ。
だから、ウエイトトレーニングをしても体重が思うように上がらなくなった3年生の頃に、1日1回だけプロテインを飲み始めたんだ。でも美味しくなかったから、すぐ止めちゃった。
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現役時代の最高体重は、30〜32歳の頃で82kg。それは、日本代表チームとしてアリーナフットボール(7人制のフットボール)を、海外のプロチームと3年連続戦った時。
その頃は、プロテインをトレーニング後・就寝前・起床時というように一番徹底して飲んでいたな〜。勿論食事は高たんぱく・低カロリーに気をつけて、豆腐・納豆・豆製品・鶏肉なら胸肉なんかを意識して食べていた。
増やした体重を落とす時は、食事量は減らさずに食事内容を変えた。当然プロテインは飲まなくなる。さらに有酸素運動を増やしていくことで脂肪が燃焼して、自然に体重は落ちていきました。
ポジションによって、勿論必要な体型は異なる。
ライン(最前列)は、体重があった上でパワーアップが大切になってくる。
そして体重だけではなく、体脂肪率が重要。スピードを有するポジションは体脂肪率は10%切るかどうかという位かな。キレも重要だから、股関節の可動域も大切になってくる。
ライン(最前列)に行くほど、だんだん体脂肪率は上がってくるけど、多くても20%位じゃないかな。
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トレーニングも時代によって、少しずつ違いがあるんだけど、今うちのチームでは肩甲骨・体幹・股関節を強化するようにしている。
股関節とか肩甲骨を意識して使うことで、効率良く身体を動かすようなトレーニングが増えているんです。練習の中で股関節を回したり、股関節を意識させるようなアクティビティーを増やすことで股関節の可動域を広げ、動ける範囲を増やしていく。
これまでは動きの吸収は裏ももだったのを股関節で行なうことで、全体的にバーンと前に出る力を増やすことが出来るんです。体軸が強くないといけないよね。バランスをとるにも、股関節は本当に大切だと感じるよ。
河谷のコメント: トレーニングにこだわっているから、食事にもこだわってトレーニング効果の後押しをしたいという気持ちが伝わってくるエピソードですね。きっと、チーム全体がそのような雰囲気があったのでしょう。ある意味、とても恵まれた環境だったと言えるのではないでしょうか? ツナの缶詰を薦めた先輩は、とても良いアドバイスをされたと思います。ツナ缶には、水煮の缶詰のものなど、油を使用していないものや少なめに使用したものがあります。脂肪を気にする場合は、油漬けのものではないものが良いでしょう。手の込んだ料理をしなくても食べることができる食材ですので、缶詰料理は料理が苦手なアスリートの強い味方と言えますね。 今まさに身体を大きくしたいとウエイトトレーニングをしている方は、勝てるアスリートの食事学18を是非ご覧下さい。 |
3.意思を持ってプレーしよう!
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選手には、意思を持ってプレーをして欲しいと思いながらコーチをしています。
受身ではなく、自分はこれをしたいとか、これを狙っているからこのように動いたなどと、失敗しても成功しても、そこに意思があるかを求めるようにしています。
なんとなくこうなっているでは自分が主となって動けていないから、何となく上手くいく事もあるだろうけど、そうじゃないこともある。それでは行動に明確さが出てこない。だからこそ、しっかり自分の意思を持って欲しいと思っているんだ。
意思を持って起きてしまった失敗であれば、次に繰り返さないように修正すれば良い。そうすれば、次にまた新たな明確な結果が出てくるから。
コーチとしてのこの思いを伝えるためにも、選手とのコミュニケーションを大切にしています。
特に、対等な立場で話を聞くよう気をつけていて、“やれ!”というような一方的な指示ではなく“その時、どのようなことを考えていたのか”“どうしてそういうプレーになったのか”等を同じ目線で聞くことで、選手をどうしたらより強くさせることが出来るのかという視点で選手と付き合うようにしています。そういう姿勢って、選手に伝わるじゃないかと思っているんです。その姿勢さえ伝われば選手は本音で話してくれるって感じています。
対等に話す上で大切なことは、まず自分を出すことが大切だと思う。
話もしていない選手は“この人何を考えているのかな?”なんて疑心暗鬼なところがあるじゃない。だから自分を知ってもらうことがまず大切。そこから信頼関係ができて、土台に乗ることができると思いますよ。
このように思ったきっかけは・・・。
引退間近の一年は、選手をしながらも後輩を指導していたんですけど、自分達が育った環境って、自分達で先輩のことを見て盗んで、それをカスタマイズしていくって感じだった。だから、上手くなる過程は自分で掴むものだと思っていた。だけど、それだけだとなかなか伸びてこなかったり、今の若い選手達の特性なのかもしれないけれど、言われないとやらない等と自分達で見つけ出すのが上手ではないというところがあるので、選手の視点までこちらが降りていかないと、どうしても若い選手の能力や技術を高めることはできないって感じたんだ。
現役最後の年、こんなことを考えながらコーチをやった結果、今の方法でコーチをするようになったんだ。
河谷のコメント: キャリアカウンセラーとしても活動されている玉ノ井さんだからこそ、感じることができたのかもしれませんね。選手は、どのように感じているのかも聞いてみたくなってきました。 |
4.具体的な目標を立てよう!!
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自己管理をするためには、具体的な目標を設定することが大切。
“いつまでに何kg増量する”など具体的な目標を設定することで、日々の暮らしの何を変える必要があるのかが明確になってくる。
例えば、仕事をしながらアスリートをやっている方の場合で言うと、体重を増加させるためにはウエイトトレーニングが大切だなと感じたら、そのウエイトトレーニングの時間を捻出するために、仕事の効率を上げようとする。そのために仕事は何時に終わらせて、トレーニングの日をいついつに作ろう…などと計画を立てる。
僕自身の現役が、そうだった。
Plan⇒Do⇒Checkがちゃんとできていれば良い。自分が決めたことは、どんなことがあってもやりきるということが大切なんじゃないかな。これだけやったんだから、試合で負けるはずが無いと思えるようになれば良い。
もし結果が悪かったら、次の対策を練れば良い。だから何となくやってきたでは、何がダメだったのか、どうしたら良いのかという反省材料がなくて、次の対策が考えられないじゃない。
勝つために次は何をすべきか、日常生活はどう過ごすべきか、トレーニングは?というように具体的に考えることが、大切なんじゃないかと思う。
コーチは、それを選手に常に問いかけて、考えさせるように仕向けるしかないんだよね。そこを逃げてはいけないよね。
話しづらいとかという理由で問いかける機会が減ってしまうといけない。だから、コミュニケーションが大切で、根底に信頼関係が大切になってくると感じています。そこはとても意識しているんです。
河谷のコメント: 具体的な目標を立てて実行するのは食事も同様ですね。 体重を○kg落とすためには、どの位の期間をかけようか。1日の食事を○kcalにするために、3食をどのように振り分けるべきか。 というように初めから計画を立てて実施することで、身体的にも精神的にも余裕が出てきて、結果的に勝つことができる身体作りの手助けになるのではないでしょうか? やたら滅多ら食事を減らしたり、身体を追い込むような方法では、良くないですよね。 |
中学高校時代の食事を続けていたら、きっと30歳台半ばまで代表クラスで頑張ることは出来なかったのではないでしょうか。とても良いタイミングでトレーニング方法について自分で模索したり、食事の大切さを教えてもらったのでしょう。頭と身体の両方で理解できる年代だったからこそかもしれませんね。
今後の玉ノ井コーチの活躍から目が離せません。
玉ノ井さん、貴重なお話しをお聞かせいただき、ありがとうございました。
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