トップアスリートに聞く食事学 Vol.17



2010/08/31




河谷 彰子

宮野 幹弘(みやの みきひろ)

1969年11月22日生
千葉県千葉市出身
北京オリンピック(2008年)コーチ
拓殖大学時代にウインドサーフィンと出会い、1996年まで選手として活躍。
現在、ウインドサーフィン連盟 副会長
日本セーリング連盟・オリンピック特別委員 RS:Xコーチ
フォーティーファイブアールピーエムスタジオ株式会社勤務

ウインドサーフィン連盟ホームページ:http://wf-j.org/
日本セーリング連盟(JSAF)ホームページ:http://www.jsaf.or.jp/
フォーティーファイブアールピーエムスタジオ株式会社ホームページ:http://www.45rpm.jp/index.html

飯島 洋一(いいじま よういち)

1978年10月21日生
神奈川県横浜市出身
北京オリンピック代表選手 セーリング競技・レーザー級
2006年ドーハアジア大会 銀、2008年全日本選手権優勝・世界選手権では日本人最上位(64位)となり、念願の北京へ
現在、日本セーリング連盟 オリンピック特別委員会 強化事業委員会 JOC専任コーチ

日本レーザークラス協会ホームページ:http://cityfujisawa.sakura.ne.jp/
日本セーリング連盟(JSAF)ホームページ:http://www.jsaf.or.jp/

 競技を始めた年齢やバックグラウンドが全く異なるお二人のインタビューとなりました。お話しを伺った感じから、対照的な性格をお持ちだけれど、目指す姿が同じ方向を向いているのではないかという印象でした。

宮野氏:宮、飯島氏:飯で記載しております。

1.運命の5分 そして、ハードなトレーニング (宮野氏)


宮:

ウインドサーフィンを始めたのは大学に入ってから。先輩に周冨徳さんの息子さんがいて「お前、絶対速くなるからウインドに入れよ。」って言われたのがきっかけなんです。先輩と同じ位の体型だったから(当時180cm/62kg) “そうなんだ〜速くなるんだ〜”なんて単純に思って入部しちゃったんです。

拓大のウインドサーフィン部は、卒業後にプロになる方がとっても多かったんです。5歳上の先輩は皆プロでしたし、先輩の中には日本人初のウインドサーフィン金メダリストもいたんです。だから“将来、自分もプロになるんだ”“この競技でずっと生きていくのかな〜”なんて思っていました。
ちょっとしたきっかけ、それも5分位で決まった人生の岐路でした。

大学1年の頃って、ヨット1艇を皆で使用するので、ほとんど乗れないんです。だから“海に行っているだけで満足”みたいな気分でトレーニングもちゃんとやっていませんでした。
ある日の練習中、海に流されてしまって周先輩にえらく怒られたんです。“これじゃ、ダメなんだな〜”って思ったのをきっかけに、学校へ行かずに毎日海へ行ってはトレーニングをしていました。
そうしたらどんどん上達して、1年生で一番速くなって…。色々やっているうちに、全日本の大会では6位になったんです。 “俺、速いんだ。”って思うようになってましたよ。


大学2年の時、世界選手権に出場したら1日目 1番だったんです。そんな感じで良いことばかりが続いていったんです。出場していた選手の中に、オリンピック出場経験選手がいて、その選手を見たら“あの人達、すごい!”“この人達と、一緒にやりたい!”と思って、大学3年の時にはオリンピックを意識するようになったんです。

競技生活自体は約8年と、それほど長くありませんが、めっちゃ濃かった。トレーニングをたくさんやっていた証拠に、手の平が当時“カカト”みたいに、皮膚が硬〜くなってました。トレーニング中ずっと手を握ったままだから朝起きたら、手の平が丸〜く固まったまま開けなくなってたりもしてました。すごく痛いんですよ。

小さい頃から競技を始める人もいますけど、本人の努力が大事で、結局練習しなければ勝てないですよね。僕の場合は、スタートは早くないけど、集中的にトレーニングをしていたから強くなれたんだと思います。

とにかくたくさんトレーニングしていて「こんな風の強い日に海に出るなんて…」と言われる日にも練習をしてました。海外だと風が強い所が多いので、倒れた帆を起こせなくて流されてしまうこともありました。オフショア(陸から海に吹く風)の時には“このまま流されたら、アフリカとかシシリーに行っちゃうのかな〜遠いな〜。”なんて考えながらトレーニングしていたこともありました。

一番、怖い思いをしたのは、流されている時よりも波に乗っている時。
オリンピックの最終選考試合が南アフリカの予定だったんですが、その時の波はすぐそこにいる人の姿が見えなくなる位とっても大きかったんです。風も強かったので、すごくスピードが出て、とっても怖かったのを覚えています。

2.異文化交流 そしてオリンピックへ (飯島氏)

飯:

僕の場合、幼稚園の頃に父の手作りヨットに乗ったのがヨットとの出会いです。
ある日「皆で海にでも行こう!」って父が言い出したんです。すると、たまたま木で作ったヨットが走っていたらしく、父が「あれなら、俺でも作れる!」って。父は、車のエンジン部品の木型を作る仕事をしていたので、職人魂に火がついたんでしょうね。そして、本当に作っちゃったんです。

ある日、その手作りの木の船に乗っていた時、僕とあまり年齢の変わらない子供が隣で子供用のOPという競技用の船に乗っていたんです。すると父が「あれは何だ!」って。子供が一人で乗る船の競技があるというのを知って、僕をヨットスクールに入れたんですよ。

そんなきっかけで始めたわりに、よく続きましたよね。
理由の一つは、学校とは違う友達に会えたことが新鮮だったから。
学校だと、年齢の近い人としか友達にならないけど、ヨットスクールだと自分と違う年齢や環境の友達がいっぱいいたのが、とってもワクワクしたんです。
たまプラーザの辺りに住んでいたんですが、言ってみればそこは山の環境。学校の友達は釣りをした事なんか無いのに、磯子にあるヨットスクールの友達は皆当たり前のように釣りができる。ちっちゃな異文化交流です。

中学の卒業アルバムには〝将来の夢はオリンピックに出る〟って書いてありました。このきっかけは関さんトップアスリートに聞く食事学14)です。
小学6年生のある朝、テレビのニュースを見たら〝最年少選手がアジア大会で金メダルを獲りました!〟って。よく見ると関さん(当時中学3年生)じゃないですか!スポーツ新聞を読んでみると〝史上最年少 金〟ってあって“すげー。俺もアジア大会に出場できるの?ちょっと頑張ってみようかな”って思ったんです。
この話、実は関さん知らないです。

宮:

関さんは、幼い頃からヨットエリートだからな。

飯:

さらに丁度その頃、日本はセーリング種目が強くなり始めた時で、バルセロナオリンピック(1992年)の時に、重さん(重由美子さん)がメダルを獲りそうになったんです。その後、重さんはアトランタオリンピック(1996年)で銀メダルを獲ったんですけどね(女子470級)。
そこで、アジア大会だけじゃなくて、オリンピックもあるってことを知ったんです。

宮:

強くなるために、競技をスタートする年齢はそれほど関係ないように思う。僕は小さい頃は、水泳をやっていたけど、小学生までは競技種目をしぼらなくて良いって思っています。むしろ、色々な種目をやっていて欲しい。それは、技術面は大きくなってから磨けるけど、心肺機能は小さい頃から鍛えて持久力をつけておいて欲しいから。筋力は学校の平均で良い。中学生になったら、専門種目を決めたら良いんじゃないかな。そして高校生になったら、筋トレメニューを積極的に取り入れれば良い。

飯:

心肺機能は成長期までに決まるって聞いたことがあります。大人になってから、トレーニングしてもそれほど大きくならないって。

宮: ウインドから浮気されないように、小学生の間は色々な競技をやっていて欲しいな。一番の宿敵は、テレビゲームとかのゲーム!!

飯:

でもゲーム好きな人は、ヨットとかウインドサーフィンなどのヨットレースが好きですよね。相手との駆け引きだから、ゲーム性が高いんですよね。

宮:

関さん、ゲーム好きだよね。

河谷のコメント:
 全くスタートの年齢が異なる宮野さんと飯島さん。
 
ただ一つ言えることは、年齢的に近い憧れの選手やライバル選手がいると、身近な目標になって良いのかもしれませんね。
 
そういえば、今年行なわれたサッカーワールドカップ日本代表選手の次男率が高いというのがテレビで放送されていました。常に競争心を持っているというのは、今の時代に大切なようにも思います。
 
また9歳までに、色々なスポーツを経験させることが大切だということも聞いたことがあります。蹴る・投げる・走る・跳ぶ・打つ・バランス能力…色々な動作を経験することで、再びその動きを必要とするときの習得スピードが異なるそうです。

3.トレーニングと食へのこだわり。結局のところ…

宮:

日本人同士、仲良くしていても最終的には敵になる。だから日本人と同じトレーニングをしていてはいけないって思ったんです。そこで、速いと思われる国でトレーニングをするようになって、ひょんなきっかけから香港の方で初金メダルを獲った女子選手の方と一緒に練習をしていました。
食事について当時は全く気にしていなかったんですけど、途中からすっごく気を遣うようになりました。

20年前の日本では、栄養学について何も選手にアプローチしていなかった。でも、香港では既に血液検査の結果から〝○が不足しているから、○を食べなさい。〟とアドバイスをしていました。凄いですよね。そこで、香港の今で言う日本のJISSみたいな所でこっそり僕の血液検査や食事のアドバイスなどをやってもらっていたんです。
例えば、ビタミンCが不足していると言われれば、1Lのオレンジジュースをドンッと渡されて1日かけて飲まないといけないという感じです。僕の結果は特に問題がなかったので普通に何でも食べていましたけど。

その他にも、良いと言われたことは色々と試していました
“野菜ばっかり食べるのが良い”って聞いてやってみたら“俺、これ位で良いかな。”なんて感じで、全然闘争心が無くなっちゃって駄目になったり、“食べ合わせで体重を増減させる”という話を聞いてやってみたら、すっごく気持ち悪くなったりと、失敗談も色々あります。

増量しないといけない時に“みぞおちの所にあるツボは食べるのに関連する神経があるから、食事前に押すと良い。”ってトレーナーに言われて、ずっとツボをもんでいたこともありました。そうしたら体重が増えたんです。その時は、ツボのおかげで達成したと思っていましたよ。
でも今は、そのおかげではないって思っています。それ以上にたくさん食べていましたもん。やることやった後に、何かにすがりたい時ってありますよね

飯:

僕の場合は、食事について色々な方から常に言われっぱなしでした。毎年、栄養講習会があったり、大学(関東学院大学 経済学部)では、ラグビー部監督の授業で栄養の話とかチーム作りについて等、授業の本筋とは全然違う、先生が喋りたい内容を教えてくれていたんです。まさにその授業は、僕らが今JISS(国立スポーツ科学センター)で教えてもらっているような内容でした。

食事について色々な話を聞いてやってみた結果として今思うことは、結局のところ、普通に色々食べて身体を作らなきゃいけないから〝普通の人よりたくさん食べる。〟そして〝サラダは必ず毎食多めに食べる。〟〝オレンジジュースと牛乳を必ず飲む。〟ということが基本のように思っています。

 教えている子供達の中に、炭酸ジュースが好きな選手がいるんですけど、食後に炭酸ジュースを飲もうとする時にはすかさず「牛乳とオレンジジュースを飲んでからにしろ!」って言うんです。
 飲んでも良いけど、食べるべきものを食べてから。そう伝えたら、その選手はやってくれるようになりました。これやったら速くなるかもしれないなら、やるべきですよね。


河谷のコメント:
 全く異なるタイプの2人。それぞれの結論に賛成です。大切なことは、基本的な誰もが大切にするべき日常生活を行なう。その上で、良いという噂のあることをやってみる。そして、自分に合っているかどうかを検証すること。
 身体に良いことは、ブームであってはいけないと感じます。
 強くなるためのことは最新科学も大切ですが、基本を押さえてから効果が最大限に活かされるということを頭の片隅に置いて欲しいところです。

4.トレーニング中の食事は悩みどころ。

宮:

ウインドは、陸に上がって食べてました。

飯: セーリングは、船上での昼食が多いのですが、そういう時は軽いものしか食べられないんです。重い食事だと、午後のトレーニング中に息が上がったりして吐いちゃうんですよね。そこが難点です。だから、バナナやちょっとしたサンドイッチやおにぎりを食べていました。でも、量は食べられないんですよ。だから、基本的に朝・夕の食事でしっかり補うようにしていました。

トレーニングはだいたい11〜14時。だからどうしても昼食のタイミングが中途半端になるんです。トレーニング前に食べると、朝食からあまり時間が離れていないし、後にすると時間が空きすぎてしまうし・・・。

宮:

風中心にトレーニングするから、どうしてもしょうがないんですよ。

飯:

改善しないといけない問題ではありますね。
スペインとか南の国では、レースの開始時間が昼の1時などと遅いんです。だから練習もレース時間に合わせるんです。朝早く起きると時間を持て余すし、ゆっくり起きて朝食だと昼食を食べることができない。難しいなっていつも思っています。

河谷のコメント:
 自然相手だからしょうがないところもありますが、こういう種目こそ補食という考えが大切になってくるのではないでしょうか。朝食を食べて、練習前に軽く炭水化物を中心に食べる。練習後にたんぱく質やビタミンを中心に食べる。練習前後の食事を合わせて1食分のバランスになるようにするというのも1つの方法かもしれませんね。

5.サプリメントは、最後の最後。

宮: サプリメントは最後の最後に“俺ってすごいんだ!”って思わせてくれるものじゃないかなって思っています。

飯: 僕は、サプリメントでアスリート気分を味わっている人を多く目にしていたから、アンチサプリメント派です。科学的なサポートとかも、そういうのにかぶれている選手を見ていたから、実はあまり好きじゃないんです。

ある大会で「減量しないといけないから・・・」と、提供される食事に手をつけない選手がいたんです。でも、お菓子とかは食べていたりするんですよね。なんか矛盾してるし、そういうのって料理を作ってくれた人に対しても失礼ですよ。
そのくせレース直前の食事だけは、こだわっていたりするんです。それって違うんじゃないかなって思います。

僕自身プロテインやビタミン剤のサプリメントを飲むことはありましたけど、それよりも〝風邪をひかないようにオレンジジュースを飲む〟というようなことを大切にしたいと思っています。

宮:

実際、栄養って何が正しいか分からない。基本はあるんだろうけど、色々なことを言う人がたくさんいて分からない。

飯:

ただ、確実にいえることは〝食べないとパワーが出ない!〟ってことですよね。それは、確実に体感しますよ。

宮:

僕は全てがそれに尽きるって思っている。食事は気をつけないといけないことなんだろうけど、心の支えとしてやった方が良いものの1つって僕の中では位置づけています。

河谷のコメント:
 お二人とお話しをしている中で『本当のところ、サプリメントはどうなんでしょう?』とご質問がありました。そこで、まずお答えしたことに『ジュニア期のサプリメント』について私の考えを以下のようにお伝え致しました。
 ジュニア期は基本となる食習慣を身につけておきたい時期であればあるほど、十分検討をする必要があるのではないかということです。
 “食べたい物が身体にとって必要なものである”という言い方をする方もいらっしゃいますが、食べたことが無いものは、食べたいと思うはずがありません。
 さらにサプリメントとお菓子の区別が、子供にとっては難しい形状の物もあります。
 本来サプリメントは、どうしても食べることが出来ない環境や状況で登場するもの。基本的な食習慣を身につけずに、もしくは知らずにサプリメントを積極的に使用することは、健康を害することにもつながりかねないのではないでしょうか。最先端科学を知る前に押さえておきたいことがあるのです。
 そして、選手に伝える側である専門家も、説明の際には十分配慮する必要があるように感じました。難しい・面倒くさい等と感じさせない説明方法やアドバイスのタイミングを見計らいたいところです。

6.食事はジュニアアスリートと中年アスリートにとって、特に重要かも。

宮: ユースの子供達を教えていて“子供達は大人の選手よりも食事の重要性が高いかな〜”ってこの頃感じています。“ポテトチップス食べている位なら、違うものを食べとけ!”って感じで。

そして子供達には親御さんの協力が必要で、親御さん向けのセミナーが大切になってくるんじゃないかって感じます。
大人の選手なら、必要なことは言われれば自分でちゃんとやる。でも小さい頃って出されたものを食べる。だから、親がちゃんと正しいことを分かっていれば、きっと良い環境で子供達は育っていくんじゃないかなって思う。

飯: 子供の身長は遺伝とも言うけど、親と一緒のものを食べているからっていうのも聞いたことがある。もしそうなら、親が気をつけてあげれば、子供は変わるかもしれないですよね。

宮:

それと40歳とか俺ら位の年齢で選手をやろうと思ったら、やっぱり食事って大切だなって思う。身体が動く若い選手は、基本的なところを押さえておけば良いし、もしくはそんなに気にしなくても良いかもっとも感じる。でも、子供と中年アスリートには食事はすごく大切かなって。

〝勝てるアスリートの食事学〟読んでましたよ。私生活とリンクしながら書いてあって、分かりやすいですよね。

河谷のコメント:
 カウンセリングをしていて気になる言葉に〝普通〟があります。
 “普通に食べています。”と言われて、よく聞いてみると食べ過ぎていたり、食べなさ過ぎていることがよくあります。つまり、食事はアスリートでなくても誰もが行なう行為であるがために、人によってもしくは家庭によって〝普通〟の基準が異なるのではないでしょうか。だからこそ、育成期には親御様にもお話しをして環境を整えてもらうことが重要になってくると感じます。
 アスリートの食事は健康を維持するための食事の基本を押さえた上で“トレーニングもした、食事もプラスした…だから勝てる!”という部分もあるのではないでしょうか。
 そして、アスリートをサポートする専門家が親御様にアドバイスを伝える際には、情報の交通整備をしてあげることが必要になってくるように感じています。色々な健康情報が溢れている現代だからこその課題かもしれませんね。
 宮野さんがコラムを読んでいたと伺い、驚いたと共に、とても嬉しい感想を頂きました。ありがとうございます。皆様も宜しければ〝勝てるアスリートの食事学〟もご覧下さい。

7.勝つためなら、食にもこだわることが大切じゃない?

宮:

今のアスリートは、なんだかんだ言って、何かやっていますよ。
今は色々な情報があるから良いですよね。インターネットとかもあるし、言ってくれる専門家もいるし、自分で探さなくても良いから。

昔はJISSもないし栄養士さんもいない。筋トレとかも何して良いか分からない手探り状態でトレーニングをしていた。でも今は、トレーナーや栄養士がついているから減量の時も、筋肉を落とさずに体重を落とすことが上手にできたりと恵まれた環境ですよね。

身長に対して、目安となるおおよその体重はありますけど、基本的には選手のパフォーマンスを見て適性な体重を判断しています。
体重を変動させる必要がある選手には「栄養士さんにちゃんと相談して。」って言います。事前に僕から栄養士さんに「今、○選手は○だから、○という身体にしたいので、相談にのってあげて」って電話はしておきますが、選手本人の意志で行かせます。

色々アドバイスを受けていても、体重コントロールが上手にできない選手も中にはいます。僕があまり言い過ぎるとストレスになるだろうから、あまり言いませんが、そんな選手には「今の体重より落とすか、今の体重のままで良いけど、パンピング(帆を競技者自身が動かすことで、ボードに推進力を加える技術)が人の何倍もできるようになって。」って言います。
つまり、人よりスタミナ・筋量があるなら良いという意味です。できるには、身体を絞る必要が出てくるか、もしくは出来るようになっているときには絞れているんですよね。

結局、レースに負けたら全て自分のせい。道具のせいにはできない。だから、トレーニングにも食にもこだわっていく必要があるんじゃないかな。「困るのは自分だからね。」「悔しい思いをするのは自分だからね。」って伝えています。

強い選手の食事を観察していた、あるユース選手が「あ、野菜たくさん食べてる。」なんて気づいたんです。それまで、ちょい残しする習慣があったんですが、今じゃしっかり残さず食べるようになりましたよ。

飯: 15歳の選手に「海外で戦うためには体重を増やさないといけない。」と伝えたら、8kg増量してきたんです。本来なら思春期で“太くなりたくない・痩せたい!”思うだろうに、いつも〝おかめ〟みたいな顔をして頑張って食べていましたよ。そういう点で、若い選手は素直に頑張る子が多いかもしれませんね。教えていて楽しいです。

河谷のコメント:
 色々な情報が溢れているから恵まれているとも言えますが、場合によっては情報に惑わされているというケースもよく目にします。
 ジュニアアスリートであれば、まずコーチに指摘されたことをやってみる。そして、効果を検証して次に活かすことが大切なのではないでしょうか。
 食事についてであれば“そんなに食べることができない”などと言い訳をする選手もいらっしゃいますが、まずは試してみてパフォーマンスとの影響を検証して欲しいと感じます。
 アドバイスする側であれば、初めの一歩をどう踏み出してもらうかということを配慮しながらアドバイスすることが大切なように感じます。

 トップアスリートというイメージはどんなイメージを皆さんはお持ちですか?
 お二人の設定する〝普通〟は、普通というレベルの精度が高くて、トレーニング・食事・身体のケア…全てにおいて自己管理能力が高いようにも感じます。自分の〝普通〟が本当に〝普通〟であるかをチェックしてみませんか?



河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。