トップアスリートに聞く食事学 Vol.19
2010/09/28
河谷 彰子
鈴木 慶光(すずき けいこう) 1971年7月21日生 株式会社パソナホームページ:www.pasona.co.jp |
誰にでも、ふとした事が人生の転機になることがありますが、皆さんにはこれまでどのような転機があったでしょうか?
お話しを伺っていて、代表選手に選ばれるために、自ら切り開いて突き進んで行った様子が目に浮かぶようでした。
ロングインタビューのため、2回に分けてお送り致します。
1.食事に気を遣うようになったきっかけは、サッカー選手から。
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実は水球を始めてしばらくは、食事にあまり興味がありませんでした。それが高校から大学に行く頃には、気持ちが少しずつ変わっていました。法政大学を選んだ理由は、監督・コーチが不在のため〝自分で考えながらトレーニングをしないと強くなれない〟というところに魅力を感じたからでした。
色々と試行錯誤しながらトレーニングをして代表を目指していた学生時代(’91〜92年頃)、当時、読売ヴェルディの選手だった方々と食事をする機会などがありました。彼らは、遊んでいてもアルコールは一切飲まないですし、食べ物もしっかり考えて節制していました。遊びの中で彼らの〝プロとは〟という姿を見て学んだように記憶しています。
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当時、僕は“食事は自分にとってのガソリンだ!”と思いながら食べている位で、それほど気を遣っていませんでした。しかし彼らの様子を見てから気を遣うようになりました。
ある日、肉の食べ放題に行った時、好きなだけ肉を食べている僕に『それは、見た目以上に脂っこいから食べ過ぎには注意した方が良いよ。』と、ある方に指摘されました。今振り返ると、良いタイミングに食事について注意してもらったと感謝しています。
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大学時代は寮生活で、食事は自炊でした。食事について気を遣うようになってからは、色々な本を読みながら情報を得て試していました。カーボローディングをしてみたり、カール・ルイス(陸上)やノーラン・ライアン(野球)の食事についての本を読んで真似てみたりもしました。〝肉を食べると疲れやすくなる〟という本を読んだら“本当だろうか?”と試してみたこともあります。
色々試した結果として、食欲は本能なので、気にしすぎるとストレスがたまってしまうと感じています。結局のところ、摂りたいだけ摂るのではなく、必要な量を摂ろうと考えながら食べていました。イメージとしては、肉の3倍野菜を食べるというイメージです。
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料理で言ったら、今は和食を好んで食べています。和食の方が色々な味を楽しめるから美味しいと感じています。
食欲を満たすために、色々な料理にトライするようになりました。そして、あまり揚げ物は食べずに、補食におにぎり、夕食は魚料理中心と気を遣っていました。
河谷のコメント: アスリートにとって、食事はトレーニングの一部ではありますが、その前に食事は食欲を満たすものでもあり、楽しんで欲しいひと時でもあります。欲求のままに食べるのではなく、すこ〜し考えながら食べて欲しいところです。だからこそ、小学生や中学生の内に、食事に関する基本的な習慣を身につけておくと良いのです。そうすれば、将来食べたいものが身体にとって必要なものになって、食欲を抑えることもなく、強い身体作りを目指すことができるんですよね。 鈴木さんの場合、良い方々に良いタイミングで教えてもらえた事が、すんなり心に響くアドバイスになったのでしょうね。 |
2.4部練習+食事
大学時代、何としてでも代表選手になりたかったので、授業が無いときは自分で考えた4部練習をしていました。というのも、当時は法政大学から日本代表に選ばれるのは非常に難しい環境でした。
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13人のメンバー中、11人が日体大出身。あとの1人が僕の兄。兄は法政出身ですが、就職後に日体大で練習をしていました。僕は法政大学から何としてでも代表に選ばれたかったので、そのためには〝練習量を増やすしかない!〟と結論づけていました。
4部練の間に、作っておいたおにぎりを食べていました。そのため3食以外に、おにぎりをトレーニング前後で1日5回位食べていました。強くなるために、練習量を増やす事と食事に気を遣っていました。
「こういう食事をしたら強くなると思うけど、どう思う?」と周りの選手に質問をしても、誰も何も分からず、当時食事について考えている選手はいませんでした。だから僕自身、食事やウエイトトレーニング方法など、自分の身になることについての情報にとても飢えていました。
強くなるための食の探求はその他にも色々としていました。大きな大会の選手村の食事(ビュッフェ形式)では、色々な国の選手がどのように食事をとっているのかをよく観察していました。
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シンクロや新体操など、美を競う選手は意外とたくさん食べる事に驚きました。陸上の選手は食事の見た目は質素ですが、バランスをしっかり考えている食事だと感じました。一方で、野球・水球などの団体競技は、当時いい加減な食事だったと記憶しています。
トレーに乗った料理を見て選手自身が“食事について考えているか、そうでないのか”等と観察していました。
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選手村の食事はオムレツや揚げ物などの定番料理や揚げ物料理などが多い中、ユニバーシアードで見かけたフェンシングの選手(ヨーロッパ人)の食事はとても印象的でした。緑も赤もあって彩りがきれい。そして肉1に対して野菜3のようなバランスで栄養的にも良い。見た目も栄養面も考えている選択をしていると感じました。
その一方で、食事に気を遣っていない選手は揚げ物3に野菜少しという感じでした。
食事を変えてみて体感した身体の変化は、規則正しい排便になったことです。
トレーニング前にトイレが完了していればトレーニングに集中できるので、快便はとても大きなメリットでした。
河谷のコメント: ハードな4部練習を乗りきるには、やはり補食が大切になってきますよ。 おにぎり大賛成派の私としては、とても嬉しいコメントでした。それにしても3食以外の食事に5回のおにぎりで食べるお米の量は、1日どの位だったのでしょう?1日5合以上のご飯を食べていたのではないでしょうか。かなりの量になりますね。 学生アスリートの方には、是非お米をたくさん食べてハードなトレーニングの後押しをして欲しいと思います。 ビュッフェ形式での食事の選び方については、勝てるアスリートの食事学Vol.20をご参考にしてみてください。 |
3.リフレッシュ方法は、芸術系。
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幼い頃からスポーツよりも絵が好きで、本当は画家・陶芸家・音楽家などの芸術系の方面に興味がありました。
そのため、アスリート時代にはスケッチブックを持って合宿に行っていました。クレヨンで絵を描くのが好きで、風景画というよりクロッキー(速写)というのを描きます。
以前、ある方からエレキギターをいただいて、エリック・クラプトン〝レイラ〟の最初のフレーズだけでも弾いてみたいと思っていますが、F(エフ)の弦が押さえられません…。
学生時代は、他に読書や音楽を聴いてリフレッシュしていましたよ。
河谷のコメント: ハードなトレーニングの話をされていたかと思ったら、芸術方面にもとても興味あるというお話を伺い、とても驚きました。 絵が好きだという理由から、食事の色彩も気になるのではないかな?と感じてしまいました。 ちなみにプロフィール横の画は、無理を言って描いていただいたご本人の直筆です。お子様の12色のクレヨンを使って、20分程で書き上げたとおっしゃっていました。絵の才能ゼロの私にとって、鈴木さんの多彩ぶりに驚くばかりです。 |
人より強くなるために、何をすべきか?試行錯誤していたというお話しがありましたが、皆さんは、どんなことを試行錯誤していますか?
身の周りにある情報が少ないと知りたくなるもの。残念なことに、情報が溢れていると、自ら積極的にあまり動きださないもの。このような話は三浦淳宏選手の時にも“強くなるために、身体能力とかセンスというのも必要だけど、自分を向上させるための情報を得てそれを活かすのも大切”とありましたね。(トップアスリートに聞く食事学Vol.11参照)
何に対しても、ハングリー精神が大切だなと感じました。常に現状に満足せずに、情報を集め、人からのアドバイスに耳を傾け、色々試して自分にあったものを自分のものにする。そのためには、ある程度の時間も必要となってくるでしょう。
皆さんは、何から始めますか?
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