第1回 ドイツのスポーツ界とその現状

 ドイツには2,750万人(ドイツ人口:約8,000万人)もの人々が、スポーツクラブの会員となっている。91,000以上のクラブが存在し、880万人以上がボランティアで5,000万時間を活動に充てる。この人・活動時間を、お金に換算すると莫大な額に相当し、指導者の中には元プロ選手もいる。

 いくつかあるプロスポーツクラブは、小さなスポーツクラブの大きな貢献の元に成り立っている。競技レベルの高い選手を育成することができれば、そのクラブに対してドイツサッカー協会(DFB)からお金が援助されることもあり(選手の得点数に応じて、出身クラブに対してお金を払うケースなど)、こういった金銭的援助は、小さなクラブにおける、タレント発掘・育成に対するモチベーションを維持する上で非常に重要である。


【ドイツのスポーツシステム】

連邦制

「都市」・「ラントクライス」が最初の単位(例:フランクフルト)

「ラント=州」(例:ヘッセン州)

「ブント=連邦」(例:ドイツ連邦)

例)フランクフルトは、ヘッセン州に所属

こうした構造がスポーツにも存在し、それぞれの競技で、都市→ラント→連邦組織となっている。


こうした組織が集まり、ドイツオリンピックスポーツ連盟を収束する。



この図に示されるのは競技団体だけだが、そのほかに体育協会も存在する。

ドイツオリンピック連盟全体としては、16の州スポーツ連盟、61の競技団体、その他、特別な課題を持ったスポーツ団体(研究機関など)で、構成される。

【ドイツのスポーツクラブの発展状況】

会員数 人口に対する割合
1956 440万人 8.2%
1966 770万人 13.1%
1976 1420万人 21.0%
1986 1960万人 31.9%
1996 2630万人 32.1%
2006 2730万人 33.1%

70年代に生涯スポーツ(Breitensport)が、盛んになり会員数が増加。

50年代は、男女比4:1だったのが、現在では、スポーツクラブの1/3が女性会員となっている。

サッカー 6,563,977 女性が約90万人を占める
体操 5,006,039 男性がマイナーで、女性の方が多い

(Faustballも体操に所属、ヨガも入っている)

テニス 1,586,683 90年代に会員数が200万人を超えたが、現在は減少している。ベッカーとグラフの活躍で人気が沸騰したが、両選手が引退した現在では平常に戻っている(グラフ、ベッカー活躍以前よりは会員数が多い)。かつてゴルフとテニスは中産階級以上の人たちのスポーツだったが、ゴルフはまだしもテニスはかなり一般化が進んでいる。
射撃 1,462,290 オリンピック種目だけではない、北ドイツ、バイエルンなどでは、射撃が生活の一部となっており、お祭りの際に使用するために登録しているケースもある。(射撃には、石弓、アーチェリーなどを含む)
陸上競技 891,006
ハンドボール 842,070

【アドミニストレーション】

 

行政がスポーツを振興している

連邦
代表
競技スポーツ 強化センター
Olmpiast_tzpunkt「オリンピック支援拠点」

国で主催するような世界レベルの大会の開催
研究
学校・大学スポーツ(地域スポーツとは別の活動) イギリスやアメリカでは学校スポーツが競技性の高いものだが、ドイツはそういった環境ではない。競技力の高い選手は、長い間、大学での学業と、クラブチームでのスポーツとの両立が極めて難しい状況に悩まされてきた。近年、大学・学校が競技力の高い選手の学業とスポーツを両立させるため、サポートするようになってきてはいるが、アメリカのように「競技力があるから大学から引く手あまた」という事はない。
生涯スポーツ(Breitensport) 一般の人たちに対する指導者に、お金を出すのは州の仕事。ただし、州レベルの政治家達も、競技スポーツを支援することで市民の支持を集めたいこともあり、州レベルにおける競技スポーツも盛んになる傾向がある。「州代表コーチ」という傾向。

 

生涯スポーツで重要なのは、コミュニティである。

自治体:市町村、施設を作って維持することをするから殆どのスポーツ施設が、コミュニティに所属している。施設がどこにあるかが重要である。

【財政】

ドイツでは、経済が悪化して、とりわけ市町村の税収の落ち込みが激しい。

年々の補助
連邦 2億2000万 ユーロ 約280億円
7億ユーロ 約840億円
コミュニティ(町村) 30億ユーロ 約3,600億円

 

重要なのは、行政にとって以下の3点。

(1) クラブが独立した団体であること(行政などに所属していないこと)
 スポーツは、政治から大きなプレッシャーを掛けられることがある。以前、連邦政府がドイツスポーツに影響を与えようとし、モスクワ五輪に対するボイコット問題が発生した。政治的な圧力の下に、当時の国内オリンピック委員会(NOK)がオリンピック参加をボイコットしたもので、政府は、これが大きな間違いであったと反省した。

このような事例を背景に、ドイツには「国はスポーツに対して口を挟まない」というのが原則であり、行政がスポーツ団体の独立性を犯すことはできない。だが、やはり行政はスポーツに影響を及ぼすことができるもので、予算のかけ方次第で競技スポーツに力点を置くことができる。

(2) 補助金は、自力でやっていけないスポーツ団体にだけ
 競技団体として運営が自立しているところに対して、行政は、お金を殆ど出さない。あるいは全く出さない。例えば、ドイツサッカー協会の男子ナショナルチームには国からの補助金は出ないが、女子のナショナルチームには補助金が出る。

(3) パートナーシップによる協働
 フランクフルト市内には440のスポーツクラブがあり、その上にフランクフルト市体協が存在する。フランクフルト市スポーツ行政セクションは市内にある大きなクラブ(Eintracht Frankfurt:13種類の競技を保有する) と、頻繁に協議を行っている。Ex)会員18,000人のケーゲルクラブもある。
 フランクフルト市民で、クラブに入らない人も少なくないが、クラブに入らない人でも、プールに行ったり、公園で走ったりするので、そのために施設としてスケートボード施設、ストリートバスケットボールコートなど、誰でも使用可能な施設を作っている。
 スポーツ団体で、競技団体に所属しないものとしては、98年から始まった「火曜日のスケーター」(Dienstags skater)というものがあり、 毎週火曜日にスケーターが集まり、3時間にわたってインラインで走り回る(警察が対応する)。夏には、何千人もやってくる。秋は落ち葉がスケーターには危ないと、問題にもなっている。

その他の財源:公益性・ロト資金・スポンサリング

◆公益性

 ドイツでは、寄付行為をすると税制面で控除対象になるというメリットがある。ドイツの税制は、これ以外にもいろいろなシステムで税金が控除されるようになっており、スポーツクラブなどに寄付をする意識を高めている。クラブは、公益団体として認知を受けることで、お金が入りやすくなっている。このように、スポーツに対する寄付や、税制控除は非常に重要であり多くのクラブが寄付と会員の会費でまかなわれている。

 一般的にクラブの会費はそれほど高くない

大人 10ユーロ

→大人は週に1回から2回

子ども 5ユーロ/月

→週に2〜3回スポーツ活動が出来る

◆ロト資金

 州にとっても団体にとっても大事なのは、Lottoのお金である。ドイツでは賭行為が行政の独占的な権利となっており、州の機関だけがLottoの主催者たりうる。(ただし、ネットの賭は禁止されている)ロトの売り上げのうち、 エコ活動、スポーツに収益の20%が使われている。ヘッセン州だけで年間2千万ユーロ(24億円)。

 スポーツの賭は、90年代からインターネットでも始まった。イングランドでは、トトが行われているが、ドイツにおいては、「民間で行ってもいいのかどうか」という議論があった。その結果、スポーツに対する補助金が減るのを警戒して、インターネットを利用しての賭を禁止することになり、4年間にわたって民間インターネットスポーツ賭会社の宣伝を禁止した。

 ヴェルダー・ブレーメンは、そうした民間インターネット賭け会社のスポンサーがついていたが、ユニフォームにその会社ロゴを入れて試合に出場することが出来なかった。また、チャンピオンズリーグでは、ドイツで行われる試合にレアルマドリーがユニフォームにそうしたスポンサーを出せるかどうか議論になり、フランスの自転車チームも同じケースでツールドフランスに出られなかったことがあった。

 禁止されてはいるものの、ネットには国境の制限がないので、ドイツでも、イギリスなどの民間スポーツ賭け会社を利用している人はいる。また、ドイツでは、ネットの賭を国内で禁止したために、ドイツ内の小さなネットカフェが裁判所の判断で閉鎖させられたことがある。そこでネットカフェ側は、欧州裁判所に訴え、5週間前に欧州裁判所は、ドイツの法律は欧州のルールにかなっていないという判例を出した。いずれ、ドイツ国内でもネット賭が許されるようになるのかもしれない。研修の3週間前に、ドイツスポーツ連盟会長に辞任を迫るシーンもあった。「ネットによるスポーツの賭が禁止されていることで、裏で行われると、違法な操作が行われるかもしれない。だとしたら、認可され、そこにルールが出来た方がいい結果を招くのではないか」といった意見が挙がり、スポーツ結果の操作と賭の操作は大きな関係があるもので、賭の主催者との間で緊密な関係を持つことが求められている。

◆スポンサリング

 チャンスは多くないが、サッカーは小さなクラブでもスポンサーから資金を得ることが多い。他の種目では、スポンサーの獲得は容易ではなく、バスケットボールのスカイライナーズは、ドイチェバンクがスポンサーから撤退してしまい、そのあとのスポンサーが決まっていない。また、リーグは、クラブよりスポンサーが少ない。

唯一、統制をとっているものは放送権であり、順位の上位クラブが下位クラブに比べ、多くの分け前をもらえる。


【社会的な意義】

政治的なレベルと、スポーツ的なレベルで話し合う事が必要。ドイツの教育については議論が重ねられてきたが、スポーツや、特に学校スポーツは、議論の中に入ってきていない。50%の子どもがスポーツクラブに入っている事を考えれば、もっとスポーツが影響力を行使すべきである。クラブ参加者は多いものの、競技スポーツばかりが日を浴びて、その他のスポーツがあまり取り上げられないという懸念もある。

サッカー協会には、大勢の専任スタッフがいるが、他の小さな競技団体では、他の仕事を持った人がボランティアで組織の運営をしている。金銭的な問題を含め、ボランティア指導者には限界があるという問題が浮上しており、ドイツではサッカー以外の競技団体でもスポーツのプロフェッショナル化が必要である。多くの人がそうしたことで役職にしがみついていたりもするので、こうした改革については、大きな声では言いにくい。


【現在問題になっているテーマ】

◆人口・移民

 ドイツは人口が減り、平均年齢が高くなってきている。出生率は、60年代には120万人だったのが、現在60万人と減少傾向であり、高齢化が進んでいる。その影響から、子どもたちのチームを作るのが難しくなっており、まだサッカーはやっていけるが、ハンドボールはかなり難しい状況になってきている。

 また、50%の子どもが、両親が移民、ないしその両親が移民という移民の背景を持っており、他のスポーツ文化を持ち込んできてしまう。ボクシング、重量挙げ、レスリング(ドイツ人が極めて少ない)などが代表的で、種目によってはドイツ人ではない子どもたちしかやらないものも出てきている。ボートなどでは、トルコ系の若者たちを見つけるのが難しいなど、こうした状況下で、クラブは将来的に会員数を大きくしていけるのかどうかが問題となる。

 問題を解決するには、外国系の子どもたちをスポーツの中に入れていくことが重要。大きな部分を占めるのはサッカーで、数が多いことから見ても移民的な背景を持った子ども達も活躍している。メスト・エジル(トルコ系移民3世、南アフリカW杯出場し、現在レアルマドリーに所属)が登場したことで、外国籍の子どもたちの理想像になっている。

◆学校体制の変化

 今世紀の初めまで、ドイツの学校は半日制度だった。子供達は、午前中学校で勉強し、午後はクラブでスポーツをする時間となっていた。学校の体育館をクラブが利用できるようになっていて、クラブは学校の施設を使える時間をかなり有効に保持していた。それが、最近、子供達の学力低下問題もあり、全日制の学校制度に変わってきた。そのため、スポーツの持つ役割が議論され始めている。問題となるのは、「青少年を対象にしたみんなのスポーツプログラムを今後もやっていけるのかどうか」「学校と並行して、競技スポーツをするために十分なトレーニング時間がとれるのかどうか」という2点で、クラブが提供すべきものを学校に持って行こうという方向が検討され始めている。しかし、いい形のモデルケースが出てきているわけではないので、クラブには不安の声があがっている。州によっては、教育を13年間から12年間に縮めるという方向もとられており、それにともなって1日あたりの学業時間が増加していくわけで、当然スポーツに割く時間が減少してしまう。こうした流れが、スポーツ団体にとって議論の対象になっている。制度の変更自体は、女性が仕事に就く機会が増えてきたため、それまで子どもの面倒を見ることの多かったが母親が家庭にとどまりにくくなっていることが背景にある。

◆健康(予防とリハビリ)

 スポーツは、病気の予防と病後の回復、リハビリに非常に高い効果がある。予防に関しては、有酸素運動による循環器に関する影響、体操をすることによる腰痛予防、子どもの肥満防止などが挙げられ、子どもがダイエットするため、スポーツプログラムを利用する動きも盛んである。軽いスポーツプログラムが、がん治療に役立つと考えられているので、がん手術後のリハビリの一環として、また心筋梗塞の後、フランクフルトの病院ではスポーツを利用した、がん患者治療中のプログラムが行われている。こうしたプログラムは、スポーツクラブから提供されているため専門家を必要としており、健康保険からお金が払われるケースもある。健康とスポーツとの関係は、高齢化が進むにつれて、今後さらに重要度を増していくはずである。

◆生涯スポーツと、プロスポーツの役割

 ドイツでは、このところプロスポーツと生涯スポーツが非常に密接な関連を示している。アイントラハトフランクフルト(スポーツクラブ)では、子どもと母親の体操や、70歳以上の人のための運動教室、アリアーネ・フリートリッヒ(走り高跳び)、ベッティ・ハイドラー(ハンマー)が、行われている。プロスポーツは、クラブ内の生涯スポーツと密接な関係を持っており、クラブ内の他の競技にもそれなりの敬意を払っている。

 学校との関係も深く、学校のためにバスケットボールのプログラムを提供している。学校でのバスケットボールの人気を高めるためにそうした活動をしているのだが、そのことにより観客を獲得しようという狙いもある。

 プロ選手もこのところ社会的プロジェクトに関心を示すようになってきており、アイントラハトフランクフルトが障害者の施設と関係を持ち始めているし、スポーツシューレの訪問をするケースも聞くようになってきた。

 しかし、この分野においても、問題が生まれている。生涯スポーツ、競技スポーツ、プロスポーツ、いずれも協力してやっていかなければならないことは、認識している。サッカーがスポンサーから多額の資金を獲得し、他の競技にお金が回らないと批判され、問題が起こることもある。そこで、ドイツスポーツ援助財団(Deutsche Sport Hilfe)というトップ選手への援助をする財団があり、ドイツ政府銀行(BDL)がドイツスポーツ援助財団にお金を提供する事で他の競技を助けようとしている。

◆2018年オリンピック冬季大会ミュンヘン招致

 1972年のミュンヘン夏季大会がドイツで開催された最後のオリンピックであり、ドイツでは2018年に冬季オリンピックをミュンヘンに招致する意向がある。


スナップ集


Mrs. Sylvia Schenk


講義の様子

梅北団長とMrs. Sylvia Schenk

資料編
ドイツのスポーツ界とその現状