第3回 地方自治体と競技スポーツ

〜フランクフルト市のスポーツ振興〜

【フランクフルト市スポーツ局の三本の柱】

(1) 青少年育成重点スポーツクラブ振興
(2) スポーツ施設管理運営
 運動場・体育館・スタジアム(コメルツバンク・アレーナ等)
(3) イベント招致や支援


【フランクフルト市概要】

 フランクフルト市は商業の中心であるが、人口68万人の中規模都市。スポーツ局は、市民へのサービス機関である。行政と市民の間の橋渡しとなるべく、行政へのアドバイザリーの役割、そして、全ての市民にスポーツをする可能性を期待し、施策を展開している。
 フランクフルト市のスポーツクラブは、426クラブあり、会員は15万5千人。そのうち5万人が青少年である。最近、長い歴史を誇る5クラブが150周年祭を迎えた。


【スポーツ振興基準線】

◆スポーツクラブの役割
 スポーツクラブは、公益団体であり、理事や事務局長は無償で従事することが前提である。行政は、青少年育成に重点をおいており、スポーツクラブの日常的な活動を社会貢献活動として財政支援をしている。また、青少年15%以上のクラブは、青少年メンバーが少ないクラブより優遇される。

◆補完の原則
 スポーツクラブは、自ら活動し、自立した運営をする。補完の原則とは、スポーツクラブの足りない部分を行政が支援し、行政が足りない部分をスポーツクラブの活動が補っていることを意味し、この考えの下、施策が打たれている。


【市の施設】

 スポーツクラブの中には、独自のスポーツ施設を所有しているクラブもあるが、大半は市のスポーツ施設を利用している。公益団体であるスポーツクラブは、些少額で市のスポーツ施設使用が可能である。市の54の施設のうち、46施設はクラブに施設管理を任せる等、指定管理者制度を導入している。1990年代からスポーツクラブと市との間で指定管理者の契約が始まった。残りの9施設は、市のフレキシビリティを確保するため、市が施設管理している。指定管理の契約期間は、定めておらず、個別の案件に応じて交渉する。契約期間中は、管理職員として市職員を置いている。また、市内には170の学校体育館があり、学校局が保有している。学校行事使用時間外は、スポーツ局が借り上げて、スポーツクラブに貸し出している。使用団体については、事前にスポーツ局が審査し契約する。プールについては、2003年ごろまでプール局が管理していた。現在は、管理会社を立ち上げ、13のプールを管理している。

【行政からの支援(補助金)】

◆施設維持管理費補助

a)一括交付金
助成は一所在地につき一スポーツ施設に対してのみ行われ、全利用時間の少なくとも75%がスポーツ活動に使われている場合に限る。( 少なくとも年35週、週5日、一日4時間の使用)また、行政所有の指定管理施設が対象でクラブ独自の施設は対象外となる。

表:施設ごとの一括交付金支給額

スポーツ施設 支給額
大型グランド 3,925.- ユーロ
走路 1,420.- ユーロ
テニスコート 220.- ユーロ
艇庫 3,815.- ユーロ
室内乗馬上 1,915.- ユーロ
射撃場 60.- ユーロ
体育館 支給額
50 – 100 qm 13,090.- ユーロ
101 – 200 qm 14,180.- ユーロ
201 – 300 qm 16,370.- ユーロ
301 – 400 qm 18,545.- ユーロ
401 – 500 qm 19,645.- ユーロ
501 – 1,000 qm 21,000.- ユーロ
1,000 qm以上 27,830.- ユーロ

b)賃貸料と、賃貸借料への助成
例)

18才未満の青少年会員の割合
25%以上 自己資金が最低 400.- ユーロの場合95%
15%以上25% 自己資金が最低1,300.- ユーロの場合70%


c)新築または修理への助成
◇原則
・再開発やメンテナンスの事業が優先される
・エネルギーや水の節減につながる事業が特に優先される
・新築や拡張工事は、スポーツ振興や特に再開発のその他すべての分野の費用をカバーするために予算が十分にある場合にのみ助成される
補助金の額は18才未満の青少年会員の割合によって決まる
例)

18才未満の青少年会員の割合 補助金額
20%以上 経費の35%
15%以上 経費の25%
10%以上 経費の15%
5%以上 経費の10%

※青少年の割合が30%以上の場合、特別な申請で40%の補助金がうけられる。
 市のほか、州からの補助金もある。


【青年スポーツの振興】

プロジェクト振興への経費
実技指導者への指導料
青少年指導者への指導料
その他

例)青少年(18歳まで)に対する一括補助金 18ユーロ/名
また、クラブの会長、事務局長は無償を原則としているため、それに対する補助金はない。


【一般的なスポーツ振興(ソーシャル的な要素、社会的意義のあるスポーツ)】

 プロジェクト振興
   障害者スポーツ
   貧困家庭のスポーツ
     施設使用料や器具使用料の減額
     女子向け自己防衛等の柔術
     夜中に出歩く子どもたちに体育館でスポーツイベントを実施
     スポーツユーゲントではボクシングと卓球を行う
   高齢者スポーツ
   女子スポーツ振興(特に初動時の補助)

◆市の統括団体
市には、426クラブを取りまとめる体育協会と青少年育成を目的としたスポーツユーベントの2つの統括団体がある。

◆表彰
市には、様々な表彰がある。受賞者は、大抵クラブに寄付をする。
例) クラブ設立25周年ごとに催される記念式典への祝金
  長期ボランティア(無償)への祝金

◆競技スポーツの振興
 原則的には、連邦と州が行う。地方自治体は、特にスポーツ施設等、インフラ整備を担っている。また、財政的に余裕のある市は、競技スポーツ振興にも積極的に取り組むことが可能である。フランクフルト市は、競技スポーツ振興に30万ユーロの予算を計上している。申請時は、一つのクラブだけではなく、いくつかのクラブがまとまりグループとなると、補助対象になりやすい。尚、先進している団体競技への支援はあまりなく、プロチームではラグビーに1,000ユーロ拠出している。

◆フランクフルト市の年間予算
 クラブに直接的な補助 4,097,000ユーロ
 施設利用等、間接的な補助 12,417,000ユーロ
 イベントに対する補助
 (戦績に応じて急遽発生したカップ戦や優勝決定戦等) 1,509,000ユーロ
フランクフルト市のスポーツ振興にかかる年間予算は、4,000万ユーロである。また、単発事業等の特別予算として、ドイツ体操祭2,000万ユーロ、女子サッカーW杯1,000万ユーロ等を含めると年間平均5,000万ユーロが予算計上される。


【フランクフルト市のスポーツクラブ】

◆コメルツバンクアレーナ


サッカー男子ブンデスリーガ1部アイントラハト フランクフルトやNFLヨーロッパフランクフルト ギャラクシー等の本拠地であり、市が所有する施設。所有者は有限会社化し、ゲオルク・ケーパンフランクフルト市スポーツ局長が事務局長。施設運営については、管理会社があり、たくさんの収入を増やす目的を課している。また、1億8800万ユーロをかけ、観客席増席や屋根の開閉可動機能等を改修した。(収容観客数 サッカー:51,500人 コンサート:44,000人)

◆アイントラハト フランクフルト(男子サッカー)
 ドイツの中でも有名なクラブであり、市のブランドイメージ向上に貢献している。以前は公益法人の一部であったが、株式会社組織として切り離し経営している。しかしながら、スポーツクラブとコーポレーション契約を締結し、従来のスポーツクラブの名称が残っている。年間予算6,700万ユーロで、サッカーの会社組織と公益団体の体操、陸上競技、テニス、卓球等の全15競技を展開している。また、収入の7%をスポーツクラブへ支払い、スポーツクラブの中で指導者養成をするコーポレート契約も結んでいる。サッカーの株式会社とスポーツクラブの所在地は別である。
<参考>スポーツクラブは、独自でスポーツセンターを建設した。その際、建設費1400万ユーロのうち市が210万ユーロ、州が100万ユーロを補助し、残りをクラブが支払った。

◆FFCフランクフルト(女子サッカー)
 ヨーロッパ1成功している女子サッカークラブ。女子サッカーのみのクラブで会員430名。年間予算150万ユーロ。プロフェッショナル化しているクラブは、スポーツ施設を使用する際、高い施設使用料を支払わなければならないが、このチームは少し安い額で利用している。

◆ドイツバンクスカイライナーズ(男子バスケットボール)
 2004年ブンデスリーガ1部チャンピオンチーム。学校とクラブの提携により、次世代選手の育成を行っており、スポーツ施設利用料は割安価格で提供している。室内競技場は、1988年当時としてはモダンな造りであったが、その後、多機能体育館が各地で誕生し、ドイツバンクスカイライナーズからも大きなモダンな施設がほしいと建設の要望を受けている。しかしながら、財政的に難しく、アイスホッケーブンデスリーガフランクフルト ライオンズの経営破綻もあり、見送る予定。公共施設の為、他のスポーツや文化イベントでも使用し、稼働率の確保が必要である。2、3年後に本施設の建設に踏み切れば、建設費が1800万ユーロかかる。市単体での建設は不可能なため、パートナーを探す必要がある。また、施設利用に関しては、フランクフルト市にハンドボールクラブがないため、近郊地域のハンドボールチームとの連携も踏まえ、多機能な動きを検討している。

◆フランクフルト・ライオンズ
 2004年ドイツ選手権大会優勝。ラートスヴェークのアイススポーツ室内施設を競技場として利用。1シーズン約180,000人集客。

◆アイススポーツホール
 アイスホッケーブンデスリーガフランクフルトライオンズの本拠地であった。築30年で7,002名を収容でき、年間28万人ほどが利用している。スケート一般公開や他のスポーツイベントもあり、スケート靴貸し出しとレストランが営業している。

【マイナースポーツへの助成】

 車いすバスケットボール、ラグビー、卓球、体操等、1,000ユーロ助成


【スポーツイベント紹介】

 馬術大会、市民参加型自転車競技会(16種目)、財政及び運営に協力しているアイアンマン予選会、世界陸上競技連盟から表彰を受けたフランクフルトマラソン(1万2千名参加)、法人や団体がチームとなって、参加するJP Morgan Chase(7万人参加)、2006FIFAワールドカップパブリックビューイング(マイン川の中にスクリーンを設置、両岸からサポーターが観戦)、ドイツ国際体操祭(40カ国・6万人参加)、市民参加スペクタクルショー等。


【備考】

・フランクフルトは、銀行と金融の町であり、スポーツをツールにイメージアップを図りたい。
・国際大会招致および開催は、メンテナンス等を行う良いきっかけとなる。
・現在スポーツ局は、来年の女子サッカーワールドカップの準備に追われている。コメルツバンクアレーナでは、4試合と決勝を開催予定。
・社会的に飽きが生じているのか、有料フィットネスや個人でできるスポーツ等を好む方も増えてきている。
・スポーツクラブ間の選手の移動については、特にボール競技において、強いチームを選んで移籍していったり、仲の良い友達に誘われて移籍するといった動機のほかに、芝生グラウンド保有のクラブ等環境の良いチームに流れることが発生している。
・会費を支払うことができない子供たちへのスポーツする機会を与えようと、学校入学時の健康診断で得たデータから様々なスポーツを体験できるプロジェクトを計画中。


【今後の課題】

 移住者のインテグレーションがドイツ国内でテーマとされている。スポーツにおいては、人種や民族間で問題にならないため、融合を図れるようスポーツクラブに求められる部分がある。特にイスラム系のトルコ移民女性に指導者資格を取ってもらえるよう模索している。移民だけでクラブ形成する等、それぞれの人種や民族が分離した形ではなくスポーツを通して、多国籍の人々が融合できるよう施策を打っていくことが課題である。


コメルツバンクアレーナ視察




講義の様子



コメルツバンクアレーナ


施設見学



全体写真



資料編

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