第7回 ドイツのスポーツシステムの特徴

〜社会の発展に貢献するスポーツクラブ〜

【スポーツとスポーツクラブ】

◆現代スポーツの構造的変化
 

スポーツを続ける人(加入)の増加率は、年を取るほど増えていて、スポー
ツクラブのプログラム提供も変わってきている。スポーツを行う回数は女性が
多くなってきた。



 また、スポーツを行う場合の組織体系にも変化が見られ、スポーツクラブに 入らず、ジョギングやウォーキングなど自分一人でスポーツをする人が増加し てきた。

  スポーツを行う動機を調査したところ、1 番多かったのが、健康のため、次に
楽しむため、以降、順にストレス発散のため、美容のため、自然にふれるため、
友人を得るため、挑戦のため、競技力向上のためスポーツを行うという人の割
合が多く、競技力向上よりも健康や、楽しむことに重点が置かれ、スポーツの
目的が変化してきている。最近では、余暇スポーツや健康動機の種目が増えて
おり現代社会の問題点と共通する。

◆現代社会の構造的変化
  現代社会の問題とは、グローバル化・個人主義化・疾病パノラマの変化・人 口ピラミッドの変化などが挙げられ、日本もドイツも同じようにこれらの問題 を抱えている。市民が抱える健康問題の予防、改善にスポーツ・運動が大きな 役割を担うので、現在かなり成功しているスポーツクラブであっても、これら の問題を考慮し、市民が求めている新しい動機に対応したプログラムを考えていかなければならない。

  また、エッセン市の小学校新入生を対象に運動能力の調査を行ったところ、
調整力に問題のある子どもが増えており、子どもも大人も身体的問題を抱えて
いることがわかった。現在、子どもにスポーツをする機会を与えるプログラム
をいろいろな団体と協力して作成している。

◆ドイツにおける市民活動とボランティア活動の調査(サンプル数N=15,000)
◇市民活動―1999 年と2004 年の比較

◇ボランティア活動―1999 年と2004 年の比較

◆結論
 市民活動にしても、ボランティア活動にしても、スポーツが最も精神的な活 動の場となっている。

社会資本の生成に関して、ドイツの組織の中ではスポーツクラブがダントツ
に最も大きな成果を挙げている。


【ケルン市のスポーツ及びスポーツクラブの現状】


◆市とスポーツの発展、地域におけるスポーツ政策の戦略と方法に対する新た
な挑戦のために、ケルン市を対象とした調査研究を行い、ケルン市の現状を
確認した。

  頻繁に行われていたのは、スポーツクラブに加入する必要のないジョギング、
サイクリングで、人気のサッカーが5 位であった。

  「自分で/友人知人と」が、「スポーツクラブ」の3 倍以上。ジョギングやサ
イクリングが頻繁に行われていたことからも、ケルンの市民のスポーツに対す
る意識の高さが伺える。

 市民の健康または、地位社会のコミュニティのためにもスポーツクラブは不 可欠なものだが、社会の変化による大きなプレッシャーも避け得ない。

  スポンサー獲得の問題や、会員の変動・減少などから、財務状況に非常に大
きな問題があると考えられる。

◆ケルン体操クラブ1843e.V.
 
世界最古のスポーツクラブであり、会員数1063 名(男子:527 女子:536)。
会費は、11 ユーロ/月(大人)で、営利団体より割安。体操競技、バレー、バド
ミントンなど幅広いプログラム提供を行っている。

  ケルン体操クラブにおける、スポーツを行う動機の調査で、「リフレッシュ・
楽しみ」の重要度が高いことからも、競技力向上よりも健康や、楽しむことに
重点が置かれ、スポーツの目的が変化していることがわかる。

広域なプログラムを実施していることもあり、満足度は非常に高い。


◆結論

◇必要不可欠な存在としてのスポーツクラブ
 スポーツクラブは社会資本を生み出す中心的な役割を担っている

・社会への統合

・健康/予防

・市民の社会参加

・生活の質

◇スポーツクラブは現代社会の構造的変化による大きな圧力の下にある

・スポーツに対する欲求の個性化、多元化

・自己組織的スポーツ活動(ジョギング・サイクリング.etc)との競合

・商業的スポーツサービス業(フィットネススタジオ)との競合

スポーツクラブは組織力の点でも意味の点でも、ドイツで伝統的に持ってき
た独占的な地位を失っている

◇組織としてのスポーツの舵取り(3 つの中心的な認識)

1. スポーツ及びスポーツに対する欲求の分化を前提とした専門性

2. 組織としての学習

3.ネットワークの構築と舵取り
 2 の組織としての学習で、スポーツクラブが学ばなければならないことは、変 化した需要欲求に適応していくこと、提供するサービス・プログラムの開発、 組織及びスタッフの発展の必要不可欠性、クラブ運営における専門性の必要性 である。3 のネットワークの構築に関しては、以下の図のような将来への展望を 考えている。

◇スポーツクラブが組織として学習していくこと

・変化した需要欲求に適応していくこと

・提供するサービス・プログラムを開発していくこと

・組織及びスタッフの発展の必要不可欠性を認識する

・クラブ運営における専門性の必要性を認識する

◇スポーツの分化

◇スポーツに関連して構築されるネットワークの利点


・さまざまな政治領域が結び付けられる

・領域間相互のパースペクティブが得られる

・それぞれが自分の資源を出し合う

・対策の効果を格段に高める

・知のマネジメント(ナレッジマネジメント)

・地域のスポーツ政策が積極的でかつ創造的に成る

【命題】

1.ポスト工業社会にあっては、スポーツが必要不可欠な新しい社会政治的な機
能を受け持つ。現代スポーツの目に見える多くの変化は、生活の質とスポー
ツとの関係の根本的な変化を表すものである。

2.スポーツクラブが社会資本を生み出す中心的な力の源になる。このことはま
さに、ポスト工業社会にあって速度を速めて現れる社会的変化と統合の問題
に関して重要となる。

3.福祉的向上に資するスポーツクラブの必要不可欠な貢献が、特に次の5 つの
領域に認められる

・個人が存在の意味を発見する手助けをする

・社会的な統合と社会化の実現を助ける

・健康の増進を助ける

・人々が自分のライフスタイルを発見し、自己認識をする助けとなる

・市民社会における市民参加とボランティア活動を促進する

4.スポーツクラブは組織としての学習を通して、変動する環境世界に対応して
いくための自分の能力を高めていかなければならない。

5.ネットワークを構築することは、スポーツクラブ及び地域社会にあってスポ
ーツの発展を活性化するために最も重要な端緒となる。

6.スポーツ及びスポーツクラブの発展を新たに独占的に舵取りしていくために
は、そのための能力と専門性が前提となる。少なくとも地域において組織と
して学習を進めていくための、「魔法の四角形」を構成する4 つの能力が必要
になる。

7.ポスト工業社会の諸問題に関連して、スポーツとスポーツ組織が持っている
統合の能力、福祉的能力に対する期待が今後組織的体系的に増大するであろうこと、これについては疑いの余地がない。




資料編

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