求む!プレゼン能力のあるGM

石原秀樹
いしはら・ひでき
1970年11月、兵庫県生まれ。94年に熊本大を卒業し、日本経済新聞社に入社。社会部などを経て99年に運動部へ。プロ野球、サッカーを主に担当、2004年のアテネ五輪も取材した。その後整理部に移り、07年春に復帰。学生時代はサッカー部、テニス部に所属。



 「ある意味、選手より有名な広報部長から皆様にお知らせがあります」。9月中旬に行われたバドミントンのヨネックス・オープン準決勝後、東京体育館にこんなアナウンスが流れた。マイクを握ったのは日本バドミントン協会の今井茂満事務局長兼広報部長。「オグシオ」こと女子ダブルスの小椋久美子、潮田玲子(三洋電機)を売り出し、自身もメディアに取り上げられるようになった名物事務局長が、残席のある翌日の決勝のチケットも、ぜひ買ってほしいと観客に頭を下げた。

 「オグシオ」組はすでに2回戦で敗れていた。準決勝に日本人選手は1人もいない。それでも東京体育館の2階席までほとんど満杯。「オグシオ」のプレーを見るために前売り券を購入したファンが多かったのだろうが、海外のトップ選手の躍動するプレーを目にしたファンは大きな拍手を送っていた。決勝も5500人が詰めかけた。メディアに受けのいい女性選手を前面に押し出す同協会の手法に異論はある。だが、結果的であっても競技の楽しさを伝えるという、競技団体としての役割はしっかり果たしたと感じた。

 バドミントンにも日本リーグはあるが、日本トップリーグ連携機構には属していない。でもあえて取り上げたのは、今井事務局長と同じとは言わないまでも、競技をしっかりPRできる人材が、連携機構に加盟するリーグ(競技団体)に必要だと思ったからだ。

 連携機構ではチーム運営を担当するゼネラル・マネジャー(GM)の育成を重要な柱の1つに掲げている。マネジメント能力の高い人をGMに据え、選手が安心してプレーできる環境を提供するようチームに呼びかけている。GMを集めたマネジメント講座を開き、担当者の支援もしている。ただ、そもそもGMとはどんな役割なのか。企業チームなら会社の総務・人事部長などと兼務しているケースが多く、よほどの場合でない限り、年数千万円のチーム運営費を心配する必要はない。一時期相次いだ休部・廃部により誕生し、運営費獲得に四苦八苦しているクラブチームは、連携機構全145チームの2割強しかない現状では、資金獲得を含めた地元とのパイプづくりに腐心する必要性を感じないGMが多くを占めるのではないだろうか。

 よく、マネジメント講座などで専門家が話す内容は、サッカーJリーグを規範としたクラブが念頭にある。地域に根ざし、チームの価値を高めて、資金を獲得する。2006年のJリーグ覇者、浦和レッズの集客力、ブランド力は成功例として語られる。だが、同じビジネスモデルを連携機構のチームにそのまま当てはめるのは困難だろう。リーグを構成するチームがすべてクラブならともかく、企業とクラブが混在する現状ではプロ化への制約があまりにも多く、浦和のようなビッグクラブに成長する可能性は低い。まずは競技の置かれた状況を把握し、企業とクラブが同じ方向を向いて、どうリーグを、競技をアピールするかを考える方が先だと思う。

 そこで、競技団体やリーグは、リーグ全体の広報ができるGM(事務局長あたりか)を発掘・育成してはどうか。もし適任が内部にいなければ外部から登用する。プレゼンテーション能力・企画力に長けた人に託してみるのだ。それでメディアが関心を示せば、協賛企業が興味を持つ可能性は高まり、強化費につながる資金を競技団体に引き込む道も開けてくる。もし外部から招く広報パーソンに年1000万円必要なら、その資金をどう工面するか、競技団体、リーグ、チームのGMみんなで考えてみる。連携機構もこうした広報GMを重点的に支援する仕組みをつくる。

 「オグシオ」は今年の世界選手権で銅メダルを獲得した。来年の北京五輪でもメダルが期待される。ルックスだけでなく、確実に強くなっているのだ。三洋電機も協会に全面的に協力している。オグシオ効果は様々な方面に波及。男子の坂本修一、池田信太郎組(日本ユニシス)は同選手権で3位になり、今年11月の全日本選手権では用具など競技関係以外の大手企業が初めて協賛し、その数は4社にのぼるという。明らかに上昇カーブを描くバドミントン。「彼女たちが引退したらどうなるの?」などという前に、連携機構のリーグも、どうすれば各方面から注目を浴びるようになるか、競技団体全体で考えてほしい。待っているだけではチャンスはこない。