バスケットボールはいま

由利英明
ゆり・ひであき
1969年6月、東京都生まれ。
94年に朝日新聞社に入社。スポーツグループ、千葉総局、ロサンゼルス支局などを経て、現在はスポーツグループ。これまでサッカーや相撲、プロ野球などを担当し、現在は水泳やバスケットボールなど五輪スポーツや、生涯スポーツを担当。



 バスケットボールは、日本で男女合わせて約60万人の競技者がいる。しかも競技者以外の人でも小中学校時代に体育の授業で経験するスポーツで、米国ではNBAに代表されるように「見るスポーツ」として確立されている。これまで人気が伸び悩んできた日本でも、野球やサッカーのように人気が高まる可能性は十分にあると言える。


 だが、解決しなければならない問題がある。企業スポーツからの脱却だ。リーグに参加する企業は基本的にチームを社員の福利厚生の一環として位置づけ、ファンに見に来てもらうという視点に欠けている。ある特定の企業のチームに、その企業と関係ない人が感情移入するのは難しい。ホーム・アンド・アウエー制は試されてきたものの、成功してこなかった。


 従業員だけで会場が埋め尽くされればいいが、終身雇用制が崩れつつある今、休日に自社チームの観戦をするほど愛社精神にあふれる人は少ない。選手自身もバスケットを専業する嘱託契約が増え、愛社精神でプレーしているわけではない。従業員のための福利厚生は、すでに形骸化している。


 新たな動きは出ている。女子Wリーグの下位に当たるW1リーグで、「東京海上日動ビッグブルー」が企業名を取り払い、「ビッグブルー東京」と地域名を打ち出した。チームの社会貢献の一環と言える。名前を変えただけで人気が高まるわけではない。今後はバスケット教室の拡大などに努めなければならないが、企業への依存から自立を目指した動きであることは間違いない。ファンに対する最初の一歩を踏み出したと言っていい。


 男子の日本リーグも、昨シーズンまでの企業依存のスーパーリーグから衣替えし、地域密着を目指している。例えば観客数が増えれば、その利益はチームに還元するシステムとなった。レラカムイ北海道という地域密着のプロチームも新たに参加し、来季は栃木ブレックスも日本リーグ入りする。05〜06年シーズンにスーパーリーグに参加したプロチーム、福岡レッドファルコンズが経営難で解散したが、この失敗を糧に改革は進んでいる。


 その地域密着を推し進めるためにも、日本バスケットボール協会の傘下外のプロリーグ、bjリーグとの協力が必要だろう。日本協会は傘下チームとbjとの交流を禁じているが、bjはスタートした05〜06年シーズンの6チームから、08〜09年シーズンは12チームまで増える。しかも加盟希望のチームはまだたくさんあり、bjは一定の成功を収めていると言っていい。


 ともにバスケットのメジャー化を目指す同士として手を結べば、バスケット界に大きな変化が訪れるかもしれない。一般ファンにとって協会の傘下にあろうとなかろうと、興味はない。むしろ今のままでは分裂状態に映り、マイナスイメージだ。ファンの視点に立って互いに歩みよるべきだ。


 ただ日本バスケットボール協会の混乱が、新たな流れを止めようとしている。日本で昨年開いた世界選手権での約13億円の赤字の責任問題を巡り、執行部と反執行部が対立。3月から評議員会が開けないまま、今年度の予算も新たな人事も決められずにいる。本来なら新たな事業は立ち上げられないはずだろう。


 協会の混乱はあらゆる意味でプラスにならない。国内で北京五輪アジア予選が開かれた男子は、過去最低の8位に終わった。女子は来年の北京五輪世界最終予選への出場権は獲得したものの、欧米を相手に厳しい戦いが強いられる。五輪開催国の中国が予選に参加しない絶好のチャンスを逃せば、協会の混乱が原因と見られても仕方ない。競技をメジャー化するためには五輪出場が不可欠だ。早急な混乱解決が望まれる。