リーグのプロ化が進まぬ理由

北川 和徳
きたがわ かずのり
1960年3月、島根県生まれ。84年に日本経済新聞社に入社、東京本社運動部に配属。大阪本社社会部での警察担当などを経て、93年から東京本社運動部。運動部では一貫して五輪スポーツを担当し、日本オリンピック委員会(JOC)を中心に日本のスポーツ行政についても取材。昨年3月から新潟支局長。

北川 和徳
 昨年三月から新潟支局に勤務している。新潟にはサッカーのアルビレックス新潟をはじめ、バスケットボール、野球とプロリーグで戦う三つのアルビレックスがあり、さらに女子サッカー、陸上、スキー・スノーボード、チアリーディングの各チームもアルビレックスの名で活動している。あらためて考えさせられるのが、日本のスポーツを支えてきた企業スポーツとアルビレックスのような地域密着型のクラブチームの今後の関係だ。
 バスケットのアルビレックス新潟BBはbjリーグのリーダー的存在で、年間予算は三億三千万円余り。bjではトップの経営規模だが、日本バスケットボール協会傘下のJBLの企業チームと比べればかなり少ないだろう。
 選手年俸もbjはサラリーキャップ制(昨季はチーム全体で六千六百万円以下)を導入しているため、日本人選手はせいぜい一般の会社員並みかそれ以下と想像できる。JBLでは年俸一千万円を超えるのも珍しくないと聞く。当然、JBLにはいい選手がそろうし、プレーのレベルも上といっていい。だが、1試合当たりの観客動員数はbjがJBLを上回り、エンターテインメント性も高いといわれている。
 アルビレックスBBはファン(ブースター)を楽しませる努力を惜しまない。年間予算が二億円弱とされるbjの平均を大きく上回るのも、会場の演出にお金をかけるから。二〇〇七ー〇八シーズンも新潟市の国際コンベンションホール、朱鷺メッセで10試合を開催したが、そのために一千万円かけて約四千人収容できる仮設スタンドを組んだ。運営会社の新潟スポーツプロモーションの日野明人社長は「目標はNBAのようなエンターテインメント空間。そのためには設営に費用がかかっても朱鷺メッセでの開催を続ける」と話す。
 アルビレックスBBが試合をする時の朱鷺メッセの雰囲気は派手で華やかだ。MCが少しうるさく感じるが、スモークや光を使った演出、アルビレックスカラーのオレンジ色に染まったスタンドの盛り上がり。「プレーのレベルがこれに見合うほど高ければ」と惜しくなるほど。
 一方、昨年から装いを新たにしたJBLについてはテレビや写真で見ただけだが、せっかく来てくれたファンを楽しませる意識に欠けている気がする。すべてのチームがそうではないが、スタンドには相変わらず企業の動員が目立つと聞くし、選手のファンサービスも物足りないという。人気アイドルを呼んで盛り上げる演出は論外だが、初めてライブで試合を観るファンに「また来よう」と思わせなければ、リーグは繁栄しない。
 JBLも何年も前からプロリーグを目指すのを既定路線としている。それが順調に進まず、アルビレックスBBなどが飛び出して新リーグを立ち上げる原因となった。昨シーズンからはプロ化を前提に各チームに興行権を渡すことにしたが、それを受けて自主興行したのは3チームだけ、5チームは興業権をリーグに返した。自主興行チームであるOSGフェニックス東三河は昨季限りでJBLを出て、bjに参戦する。
 企業チームとクラブチームを混在させたままリーグを運営することに無理がある。企業チームは興行収入など求めない。極端な言い方をすれば、観客がいなくてもチームは困らない。自主興業をしろといわれても、新たな仕事が増えるだけ。チームに収入が生まれるとかえって経費処理が面倒になる事情もある。
 一方、企業という支えのないクラブチームは、試合の興業が最大の財源。一人でも多くの観客に来てもらい、人気チームとなってより多くのスポンサーを獲得しようと必死になる。対照的な双方を抱えたままリーグのプロ化を目指そうとしてもかなわぬ夢だろう。
 こうしたリーグ運営の難しさを抱えるのは、バスケットだけではない。スポーツ企業に支えられる構図が崩れ始めて十年にもなる。もう新しい形に脱皮してもいいころだ。
 今、リーグを運営する側がすべきことは、プロ化に向けてチームを所有する企業の協力を得るため最大限の努力をすることだろう。
 かつてJリーグ創生期がそうだった。バブルだった当時と経済状況が違うのは確かだが、逆にスポーツチームの経済的価値もはるかに上がっている。企業内運動部であるチームを独立させ、企業は支援に回ってもらうよう、粘り強く説得することだ。企業としての地域貢献、イメージアップ――。訴えるべきメリットはたくさんある。
 もっともバスケットの場合、協会の内紛が続く今の状況ではどうしようもないだろうが……。