アメリカンフットボールは常に進化を続ける
アメリカンフットボールの季節がやってきました。Xリーグの2012秋季リーグは8月30日(木)に開幕します。対戦カードは、富士通フロンティアーズ対IBMビッグブルー。今シーズン、注目が集まっているのは、IBMビッグブルーの新加入プレーヤー、ケヴィン・クラフト選手。 Xリーグ初と言ってもいい本格派QB(クォーターバック)です。IBMビッグブルー八千代台グラウンドにて、クラフト選手と山田晋三ヘッドコーチにお話を伺いました。
クラフト選手 UCLA時代の勇姿(courtesy of asucla photography) |
Q : この春に日本にいらしたばかりですが、こちらの生活には慣れましたか?
「そうですね。異文化の中に身を置くことは、慣習や考え方だけでなく自分自身を発見するきっかけになります。フランスと同様に、今回日本でもとてもユニークな経験ができています。それに皆さん、とてもフレンドリーで家族的なムードで温かく迎えてくれています。アメリカにも、カナダやヨーロッパにも機会はいくつもあったんですが、今回日本を選んだのは、過去に日本で活躍した仲間や友人とのつながりがあったことが大きいですね」
Q : チームの選手の皆さんとはコミュニケーションがよく取れていますか?
「IBMビッグブルーでプレーする上で最も良いのは、アメリカの会社だということです。英語を話す人が多く、話せない人ともコーチを通して理解し合えています。それが僕がここにいる最大の理由ですね。チームの外に出るとまだまだ言語の壁がありますが、日本人の母親を持つアメリカ人のチームメイトは日本語がペラペラなので色々助けてくれています」
山田晋三ヘッドコーチ
「今回クラフト選手を迎えるに当たり、チーム内の(競技に関する)コミュニケーションを全部英語でやるようにしました。近年のアメリカンフットボールは、QBによってプレーが大きく変わってしまうので、今回彼を迎えたことはうちのチームにとって大きなチャレンジでもあります」
右は山田晋三ヘッドコーチ。2001年日本人で初めて北米プロフットボールリーグXFLに参戦した方です! |
Q : クラフト選手が本格的にアメリカンフットボールを始めたのはいつ頃ですか?
「父がフットボールの指導者なので、僕が育った環境にはいつもフットボールがあったんですが、 子供の頃から野球とバスケットボールをやっていました。 父がフットボールはまだ早すぎると言って僕にやらせなかったんです。アメリカンフットボールには周到な指導と注意が必要なんですが、それが理解できない人がアメリカにも多いので、子供たちがイヤな経験をしてしまうことがあるんです。ですから、始めたのは5年生、12歳の時です。
高校生まで、野球とバスケットボール、フットボールの3つをやっていましたが、その後、父のためにもフットボールがやりたかったので、サンディエゴ州立大学、マウント・サックカレッジを経て、UCLAでプレーしました」
Q : 日本ではプレーヤーは一つの大学で続けることがほとんどですが、アメリカでは次々に他の大学へと移籍していきます。どのようなシステムなのでしょうか。
山田晋三ヘッドコーチ
「アメリカのカレッジフットボールでは、大学がより良いプレーヤーを次々に獲得していきます。ローズボウルのような10万人近くの観客が入るゲームが一年に何度もあり、その莫大な収入が大学に入るんですよ。加えて、テレビの放映権料も入るわけですから、大学にとってフットボールは貴重な収入源なんです。ですから、少しでも良いプレーヤーを穫ろうとするわけです。10万人クラスが収容できるスタジアムを持っている大学も多いです」
ケヴィン・クラフト選手
「テレビのおかげで多くのルールが変わりました。ゲームのフォーマットも変わり、テレビ放送に合わせて、プレーを早めたり、試合回数を増やしたり。以前はカレッジフットボールは1シーズン10試合だったんですが、今は12試合になりました。NFL並みです。NFLは1シーズン16試合ですから」
オフの時には『何もしないのが好き』。ネットやメール、ネットでアメリカのTV番組を見たりしてゆっくり過ごしているそうです |
Q : そうしたシステムだけでなく、日本のアメリカンフットボールの環境はアメリカと非常に異なります。この違いに戸惑うこともあるのではないかと思うのですが。
「たとえ観客がアメリカのように多くなくても、フットボールのゲームであることに違いはありません。確かに観客にエネルギーをもらうことはありますが、それがプレーの原動力になるわけじゃない。フットボールが好きだからプレーしたいし、プレーを楽しみたい。それは自身のためであり、何かを達成したいからです。フットボールはアメリカにおいては最もタフなスポーツです。バスケットボールや野球、サッカー、ラグビーであれば、助っ人を借りて来ても試合ができる。でもフットボールは不可能です。準備に多くの時間を費やし、ミーティングを重ね、特に心身両面での周到な準備が必要なのです。それでも満点は取れない。すべてのプレーヤーが正確に成すべきことを成さないとなりたたない競技なんです。
アメリカンフットボールは究極のスポーツだと僕は思います。だからアメリカで最も人気があるんです。バスケットボールならコビー・ブライアントがいれば勝てるかもしれないけれど、フットボールは違います。プレーヤーの誰もがチームにおける自分の役割を正確に把握し、責任と規律(commitment and discipline)を理解していなければなりません。この二つの言葉は人生にも言えることです」
Q : クラフト選手にはリーグ内外から非常に大きな期待が集まっています。
「それはこれまで日本で活躍してきたアメリカのプレーヤーたち、ケヴィン・ジャクソン(オービックシーガルズ)、レジー・ミッチェル(ノジマ相模原ライズ)、イアン・サンプル(IBMビッグブルー)といったプレーヤーが道を作ってくれたからです。彼らが加入したことはリーグにとって良いモデルになったと思います。
アメリカのフットボールは日々進化を続けています。オフェンス・ディフェンスのコンセプト、ゲームのスキーム、テクニック、その進化の可能性に終わりはありません。ですから、僕が来たことで、ここで何かが起きる、例えば、日本のプレーヤーやチームが初めてのことに遭遇したり、常識と思っていたことが変わったりすることもあるでしょう。そして僕がいなくなった後も日本のフットボールは進化を続けるはずです。
過去にも、良いプレーヤーが一人いることでプレイの在り方が大きく変わりました。僕もQBとして何かを変えたい。そしてそれを誰かに引き継いで行ってほしいと思います」
Q : 日本でアメリカンフットボールをもっと普及させるにはどうすればよいでしょう。
「 日本では大学を卒業しても続けている人が多いのはすばらしいことだと思うんですが、 フットボールにはルールや理解しづらいことがたくさんありますからね。知っている人がぜひ子供たちに説明してあげてほしい。そしてそこからどんどんフットボールに興味を持つ人々を増やして行ってほしいと思います」
Q : 開幕戦では、パールボウル2012準優勝チームの富士通フロンティアーズ(以下富士通)と対戦します。意気込みのほどをぜひ!
「富士通は日本のトップクラスのチームなので非常にリスペクトしています。ディフェンスもオフェンスも良いので、タフなゲームになると思いますが、僕たちはただベストを尽くし、良いゲームをするだけです」
(courtesy of asucla photography) | (courtesy of asucla photography) |
☆ ケヴィン・クラフト選手 プロフィール
1985年10月15日生まれ
高校
Valley Center High School in Valley Center, California 【2001-2004年】
バレーセンター高校(カリフォルニア州バレーセンター市)
大学
San Diego State University 【2005-2006年】サンディエゴ州立大学
Mt. San Antonio College 【2007年】マウント・サック大学
UCLA【2008-2009年】カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校卒業(専攻:社会学)
米国以外でのアメリカンフットボール経験
Cougars de Saint-Ouen l’Aumône, France 【2010年】
フランスのトップ・アマチュア・リーグで選手兼コーチとして活躍
アメリカンフットボールコーチング経験
Riverside Community College QB Coach 【2011年】
リバーサイド・コミュニティ・カレッジでQBコーチとして指導
大学時代の賞・栄冠など
UCLAアメリカンフットボールチーム、リーダーシップ賞を受賞【2008年】
UCLA史上第二位の1シーズンパス成功回数(232回成功) 【2008年】
ジュニアカレッジ最優秀選手賞を受賞、オールアメリカンチーム【2007】
☆ Xリーグ 2012秋季リーグ全日程
日本社会人アメリカンフットボール Xリーグ公式サイト 試合日程