サッカーJリーグ

2015-3-20

平成26年度日本トップリーグ連携機構 GM研修会 講演録 および ワークショップ 講義録 (4)

 2014年5月16日(金)〜18日(日)、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)で行われた平成26年度 GM研修会の講演録、及びワークショップの講義録を掲載致します。この研修会は、クラブ型スポーツチーム及び企業スポーツの活性化に重要な役割を果たす各リーグのGM(ゼネラルマネジャー)、マネジメント担当者、各リーグ運営者などを対象にしたもので、当機構が平成20年度から行ってきた、マネジメント強化のためのコンサルティング・研究事業を具体的方策として各チームにフィードバックすることを目的に行われたものです。講義やグループワーク、情報交換や交流を通じて課題を共有し、解決策を研究・討議しました。

【基調講演】

「スポーツ大会におけるリスク・マネジメントとコンプライアンスについて」

警察庁 警備局長 髙橋 清孝(たかはし・きよたか)氏

takahashi

 こんにちは。ご紹介いただきました警察庁警備局長の髙橋と申します。貴重なお時間をいただきまして、スポーツ大会におけるリスク・マネジメントとコンプライアンスについてお話をさせていただきたいと思います。まずもって日ごろ、皆様方にはこういうスポーツ大会の運営だけではなく、さまざまな警察活動にご協力、ご支援いただいていることに厚く御礼申し上げます。

 

 まず、警察の組織についてですが、大きく分けまして、警察庁と警視庁、道府県警察本部があります。現在、私が所属しているのが警察庁であります。これは国の組織でありまして、各都道府県警察を管理している立場であります。警視庁と道府県警察本部は、47都道府県に設置されている警察組織であります。その警察の中に警察本部というものがあって、各部があって、さらに警察署というものがある。その中に交通課、地域課、刑事課など、それぞれの業務を担当する課があるということになります。

 自己紹介いたします。私自身は、千葉県、成田高校の出身であります。空港のすぐそばの富里市の生まれで、農家の長男です。成田高校は、陸上や野球が強く、陸上ですと、後輩に室伏広治くんや増田明美さんというオリンピック選手も出ています。野球だとロッテの唐川投手もいます。

 警察に入りまして34年経ちましたが、そのうちの後半に、警備の仕事をしております。警備の仕事でも、公安とか外事とか情報部門の仕事もありますが、どちらかというとスポーツイベントや、先日来日したオバマ大統領の警備、皇室の警備、SPとも呼ばれる要人警護などを担当しております。特にスポーツ関係で申し上げれば、平成5年に埼玉県警の地域部長というポジションにおりましたけれども、ちょうどJリーグの発足した時に雑踏警備の担当部長をしておりました。

 その後、大阪で警備部長を務め、2002年のFIFAワールドカップを3試合、担当いたしました。その後も、警察庁警備課長、警視庁警備部長としてスポーツイベントに携わりました。さきほど地方の組織で、警察本部があると申し上げましたが、沖縄県警と北海道警で本部長を務め、北海道で洞爺湖サミットの警備も担当しました。また、3・11の時には内閣官房で危機管理を担当しており、震災全般の危機管理責任者を務めました。

 警察におきましても、警視庁中心に、スポーツクラブ、スポーツ活動をやっております。今一番、頑張っているのが警視庁バレーボール部で、チャレンジリーグで活動しております。警視庁アメリカンフットボール部平成25年、Xリーグに所属していましたが、入れ替え戦で負けてしまい、26年はX2リーグで頑張っております。また、かつては大阪府警ラグビー部も強く、全国レベルでありました。大阪で警備部長を務めておりました時はラグビー部長でした。

 過去のスポーツ大会における主な事件ということでありますが、平成25年4月のボストンマラソンでの爆弾テロ事件、オリンピックではアトランタでの爆弾テロ事件、そしてミュンヘンでの襲撃事件がございました。サッカーの関係ではあとで説明いたしますけれども、「ヒルズボロの悲劇」「ヘイゼルの悲劇」など、多数の死者が出た事案がございます。

<主催者による自主警備措置>

 さて、主催者による自主警備措置と警察の措置ということで、主催者側にとっていただきたい措置、警察がとっている措置、それから関係機関との関係ということで、大会の規模の大小や参加する国際大会、国内大会によって、主催者の役割、警察の役割に大小があります。各種大会を開催するにあたって、主催者の皆さんにぜひ留意していただきたい、実行していただきたいということで申し上げたいことがあります。主催者による自主警備の実践、強化です。

(会場管理)

 一つは会場の管理で、その一つは観客の動線管理をしっかりやっていただきたい。こういうことが事故防止の基本です。基本的には公共交通機関で観客はアクセスすると思いますので、そのアクセスルートはしっかり設定していただきたいと思います。要するに、過度な集中が起きないようにセーフルートを事前にきちんと決める。あるいは複数のルートを設定するということが大事だと思います。そういう意味で、過去の類似イベント開催時に、どのくらいの混雑具合があったかなどのデータを活用し、シミュレーションを行う必要があるのではないかと思います。

 この際、注意していただきたいのは、入場時の観客の動きと、退場時の観客の動きは違うということです。入場する際は、ある程度一定の時間と幅がありますので、その間に入りますが、退場時は、試合などが終了して、一気に帰ってきます。入りと出の違いを理解していただきたいと思います。

次に動線要所への案内表示や情報発信ということで、やはり観客の皆さんにきちんと情報を伝えるということが非常に大事と思います。そういう意味で必要な場所に必要な内容を記載した案内表示を設けるとか、あるいは滞留してしまった場合の事故防止のための迂回動線を用意しておいて、いざというときにはそちらに流す。そういう二段構え三段構えの対応が必要です。情報発信等は、携帯電話、スマホなどを上手に使うとか、あるいはチケットにQRコードを印字して、そこで案内の情報を発信することも大事と思います。

 それから交通規制に関する話ですが、公道の話になりますから、基本的には早めに、警察署の交通課に相談していただきたい。それからVIP動線の確保ということですけれども、やはり一般の観客とは分けていただいた方が、VIPのためでもありますし、行事を円滑に進めるという意味からも必要と思います。また、運営スタッフの管理ですが、運営スタッフにもいろいろな方がおり、下請け、孫請けも含め、スタッフの管理はしっかりやらないと思わぬところでほころびが出てくる場合があります。

 会場管理の2つ目として、入場者に対するスクリーニングです。これは基本的に大会規模の大小に限らず、主催者の責任です。警察は、不審者が入ってこないかなどの支援はしますが、手荷物検査、金属探知機によるスクリーニングは、基本的に主催者責任ということでお願いしています。これは、爆発物や危険物を会場に持ち込ませないという意味で安全な会場空間を作り、そして安心して観客の皆さんに観ていただくということを目的にしております。ただし、基本的にほとんどの観客は善意の方であります。そういう善意の方々に対しての協力要請でありますが、不審者、犯罪者の危険物持ち込みは防がなければいけない。そういう調和を考えながらバランスよくやらなければいけない。

 また、現実的な入場者積算によるチェックポイントブース設定ということで、観客数によって、どのくらいのスペースを確保してブース設定しなければならないのかは決まってきます。多く設定することによってコストはかかりますが、必要なものはしっかり設定し、スクリーニングはやっていただきたいと思います。実は、長野オリンピックの時の開会式で、もちろんすべての観客にご協力いただいて、所持品検査をしましたが、観客の来る時間帯が、開始時間のギリギリになり、滞留してしまったということがありました。そのため、事前広報で、早めにおいでくださいといった情報伝達が必要だと思っております。

それと手荷物の持ち込み制限ですが、やはりお互いのために必要なのです。検査する方も数が少ない方がやりやすいですし、受ける方も余計な荷物がない方が、時間がかからずにストレスが低下するということになる。これを実現すべく、事前の周知徹底が必要と思います。

 あと、会場チェックポイントの前段階で、しっかりと案内板を設定するとか、ペットボトルの中身は持ち込めないので飲んでしまってくださいとか、そういう広報が必要と思います。それからチケットと身分証明書のダブルチェックができればいいのですが、現実はなかなかそういかないでしょうから、ロイヤルボックスやVIPの周辺では、身分証明書の確認をされるとか、重要度、危険度に応じて、やり方を変えていく必要があります。

 カメラをはじめとする機材の活用ということですが、やはりモニターによる映像の確認は効果的ですし、抑止力にもなります。何か起きた時の事後トラブルの際の証拠としても効果的ですので、主催者の皆さんもできるだけカメラを設置、増設したりして活用していただきたいと思います。警察としてもそういう映像を伝えていただき、警備本部等で見させていただくと非常に警備がやりやすいと思います。必要であれば、カメラの増設をお願いしたいと考えます。やはりプライバシーの観点も必要でありますので、必要以上に長期間保存しないとか、あるいは映像を使用する際の決め事を確定しておく必要もあると思います。

(安全の確保)

 安全の確保ということでの一つは、雑踏事故の防止です。2001年7月21日、明石市の花火大会で発生した雑踏事故はご記憶されていると思います。JRの歩道橋で発生した事案です。死者11人、負傷者247人という大惨事になりました。一番の原因は、観客、人の流れを制御していなかったこと、一方通行にしていなかったことです。花火会場と駅の間が相互通行でした。駅から花火会場に行く人もいるし、花火会場から駅に帰る人も一緒になってしまう。それで歩道橋の一部で、混乱になったということです。

 先ほども自己紹介の中で言いましたが、いろいろな警備を担当していて、非常に難しい警備は災害警備です。突然起きますし、どこで起きるかわからない。どんな状態になるかわからない。3・11とか中越地震とかゲリラ豪雨など、災害警備は非常に難しい。その次に難しいのは雑踏警備、雑踏事故なのです。人の流れは、制御を簡単にできない。100人200人になると、すごい力ですから制御できない。雑踏事故は数万人、数千人集まらないと事故が起きないと思ってらっしゃる方が多いと思うのですが、200〜300人でも死者がでるおそれがあります。

 死亡事故が起きないものだという誤解は持たないようにしていただきたい。そういう意味で人の流れを制御、コントロールするというのは非常に大事です。一番大事なのは、一方通行にすること、流れを作るということです。

 例えば、隅田川の花火大会に行ったことのある方、いらっしゃると思いますが、駅の方から隅田川の橋まで一方通行にして、かつ止まらないようにし、少しずつゆっくりゆっくり歩いていただく。それで機動隊員が、徐々に案内するのです。そうしてゆるやかな流れができていく。これで事故を防いでいます。流れを作るということ、警備員を適正に配置するということ、人が流れていく際にはまってしまうような危ない場所はよく見て、フェンスなどを作ってそちらの方に行かないようにすることとか、階段があるところは避ける、暗いところは明るくすること、そういった改善が必要と思います。

 その次の避難誘導体制の確立として「ヒルズボロの悲劇」とは、サッカーの試合で群衆事故、雑踏事故が起きてしまった事例です。1989年のイングランドでの事案なのですが、ゴール裏の立見席に収容能力を上回る大勢のサポーターを入れてしまい死者96人を出す大惨事となりました。そういう意味で、キャパシティー以上の人を絶対に入れてはならないということ。観客の誘導をしてはいけないという事例だと思います。

 VIPの緊急退避もその通りで、先ほども申しあげましたように、いつ何時、大規模大震災、災害が起きるかわかりませんから、退避ルートをしっかり確保し、もちろん観客の皆さんも大事ですが、VIPの退避動線を確認しておくことが大事なのではないかと思います。

 安全確保で、すべての競技に該当するかわかりませんが、特にサッカーのサポーター間の抗争防止は重要です。事例として「ヘイゼルの悲劇」というものがあります。1985年のベルギーでのサッカーの試合でリバプールとユベントスのサポーター同士の衝突がきっかけとなり発生した、死者39人を出した事案です。

 緩衝地帯の設置には、警備員の配置と対策が必要となります。要するに一緒にせず、分けるということです。緩衝地帯が設けられれば一番いいのですし、そこに行く動線もしっかり分けることが必要と思います。フーリガン対策は、2002年のワールドカップ時、私は大阪で担当しましたが、イングランド戦がありましたので、今申し上げましたように、イングランドサポーターの駅からの動線、あるいは観客席のゾーンを設け、それ以外の対戦チームのサポーターの動線をきっちり分け、ある意味接点を持たせないような形を作りました。

 次は、置き引きなど、一般の犯罪防止ということも主催者にはご配慮いただきたいと思います。人が集まるところには、置き引きやスリなどの犯罪者が集まってきますから、事前の広報や、時々、アナウンスによって注意喚起することなどが有効と思います。それから女性、子供を狙った犯罪から守るため、安心して観戦できる環境づくりをお願いしたいと思います。

 また、不審物件の早期発見についてですが、これは、持ち主のわからない不審な物件があると大騒ぎになるということです。ひょっとしたら爆発物じゃないかということになりますと、最悪、周辺の観客に避難していただいて、警察の爆発物処理班が出るような事態になることもあり得ますので、不審物件は早く発見するとか、あるいは置いたらすぐにわかるように、全体の環境を整えておく。あちこちにこういう物件が置いてあると、どれがそうなのかわかりませんので、きれいにしておいていただくのも大事なことです。

(自主警備体制の確立)

 これらの処置をするために自主警備体制の確立でやっていただきたいことですが、早い段階から、その会場を管轄する警察署へ相談いただきたい。交通課でもけっこうですし、だいたいこういうイベントの警備をするのは警備課ですので、そういうところに早めに相談していただきたいです。

 それから毎回やっている会場も多いのかもしれませんが、できるだけ現場の主催者の皆さん、特に警備担当の皆さんはしっかり現場を把握していただきたいと思います。毎年行っていても、道路環境が変わっているとか、周辺に建物ができたとか、いろいろなことによって人の流れも変わります。ぜひその時点で、会場周辺の状況をしっかり把握していただきたいと思います。

 続いて、参加選手団を考慮に入れた警備計画の策定ということで、先日、五月の連休にも世界卓球があり、北朝鮮の選手団が来ましたけれども、北朝鮮、中国、ロシアは、右翼が街宣車での抗議行動を行う可能性の高い国でありますし、あるいは国際テロ情勢からみて、狙われる可能性の高いアメリカ、イスラエルなどの選手参加が見込まれるような場合には、より注意をしていただく必要があると思います。できるだけ早く、警察にも相談していただければと思います。

 選手団の宿泊場所、練習場所、移動手段など、様々なことについて配慮する必要が出てきます。私が警備を担当したドイツワールドカップのアジア最終予選、平成17年2月にありました日本対北朝鮮戦は、埼玉スタジアムで開催されたのですが、都内で宿泊し、練習し、埼玉スタジアムとの往復をするなど、非常に気を使いました。まず宿泊場所を知らせないとか、そういう情報管理を徹底しながら部隊を配置して警戒したことを覚えています。

 それから、連絡窓口の設定についてですが、これは主催者の皆さんと警察、民間の警備業者の皆さんが常に迅速な連絡が取れるよう、窓口を設定することが大事です。早い段階からできた方がありがたいです。

 また、役割分担と、指揮命令の明確化ということで、先ほども申しあげましたように、重なる部分もありますが、お互いに協議して、確認しておくことが大事だと思います。通信回線の確保、事前チェックもありますが、連絡が取れないことが一番困るので、そういうものを整えておくことが重要です。

 自主警備体制の確立については、警備に従事する人たちの教育訓練で、入場者のチェック、やるべきことをしっかり頭に入れてもらって、きっちりやってもらうということです。

雑踏対策や避難誘導にも事前の段階から計画を作って、それをしっかり実践していくように教育、訓練をしていただきたい。

 2012年ロンドン大会では、民間事業者が人員を確保できず軍隊が投入されました。当初は、民間の事業者、警備業者の方々をオリンピックの様々な場面で使う予定だったのですが、要員の確保、育成が間に合わず、最終的に軍隊を使ったということがありました。2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会では、そうならないようにしっかりやっていきたいと思います。

 それから事前広報の実施ということで、今まで何度も触れておりますが、手荷物の持ち込みを少なくするとか、公共交通機関で来てくださいとか、様々なお知らせをしたいので、チケット、ホームページ、パンフレットなど、様々な手段を使って、情報を伝えてほしいと思います。

 以上が主催者側による自主警備措置でお願いしたいこと、今やっていることです。

<警察による措置>

(雑踏対策)

 続いて、警察による雑踏対策ですが、参加観客数が多くなるなど情報があれば、機動隊の部隊を運用して雑踏整理、広報などをするということです。それからVIPの警護、警衛について、警衛というのは皇室の皆さんのプロテクトを警衛と言っておりまして、警護というのはVIPの身辺を守ることです。何れにしても、動線も違いますし、様々な対応を準備する必要があります。

(テロ等の未然防止・対処)

 また、爆弾テロという脅威への備えです。大部分の皆さんは、自分たちの大会が爆弾事案の脅威にさらされているとは思ってもいないでしょうが、オリンピックも控えておりますので、ちょっと聞いて頂きたいと思います。

 現実にボストンマラソンで、爆弾テロが発生しているということはショッキングです。

2013年4月ですが、3人の方が亡くなり、約260人が負傷しました。この爆弾テロですが、被疑者はロシア・チェンチェン系の兄弟2人組で、爆発物はインターネットを見て作ったと言っています。誰でもすぐに手に入れられるもので作った簡単な手製爆発物であります。こういうものは、アメリカに限らず、日本でも簡単にできる、という現実をご理解いただきたい。

 これは黒色火薬を使ったものでありますけど、それ以外の爆発物も簡単にできてしまうというのが現実です。手製爆発物は国内で製造されていた事案もありますし、誤爆した事案もあります。平成19年には、通勤電車を狙った列車爆破計画があり、警視庁で検挙しています。西武鉄道を爆破しようとした事案でした。手製爆発物は平成17年のロンドン同時多発テロでも使われました。

 平成26年4月、霞が関界隈で不審なものを持っていた男を捕まえたのですが、この男は自宅で爆発物を作っていました。量は少なくても作れるということは増やせるわけですから、そういう危険性があるということはご理解いただきたい。我々にとって、爆発物、爆弾テロへの備えは大きなテーマになっています。

 爆発物が容易に設置可能な施設を把握し、そういう場所がそういう連中に使われないようにする必要があります。ですから、情勢に応じてこういう場所の封鎖をお願いし、例えばコインロッカーを使えないようにしていただくお願いをしています。4月にオバマ大統領が来日した際、来日直前のテレビ等のニュースでは、東京駅のコインロッカーが使えなくなって不便だというような映像がたくさん流れていましたけれども、まさにこういう発想です。コインロッカーに爆発物をセットし、爆発させられないようにするということで、あのような対策を講じました。テロリストの目的は、オバマが来日した時に日本を困らせる、あるいはそういう事件を起こして恐怖に陥れるというのがテロリストの目的であります。

 スポーツイベントや人がたくさん集まる駅がこういう対象になります。私共は「ソフトターゲット」と言っておりますが、この対策をしっかりやっておく必要があるということで、利用者にとっては迷惑でしょうけど、このような措置をお願いしています。あとは警察の機動隊、爆発物処理班などを配置し、警戒をするとか、あとは警備犬による検索をしっかりやっております。規模の大きな大会にかかわる場合にはご協力をよろしくお願いしたい。

(関係者の輸送、交通対策、関係機関との連携)

 それから関係者の安全かつ円滑な輸送は当然ですが、交通渋滞等で周辺住民に迷惑をかけないように、配慮する必要もあります。繰り返しますが、主催者の皆さんにお願いしたことの裏返しというか、警察側対応の窓口をしっかり設定し、連絡を密にするということや、役割分担を明確にし、警察だけですべての安全を確保するのは難しいので、地域住民、地元商店街の皆さんによる協力、安全の確保が必要です。

 例えば、2月の東京マラソンのように、屋外でコースが長いような場合には、それぞれのコースの地元住民や事業者、企業の皆さんにも状況説明し、パトロールをやっていただくとか、環境整備をやってゴミがいっぱい落ちていると警備がやりづらいので、清掃をお願いするなどしています。パートナーシップという形で、警視庁では官民協力の組織を作っています。

 その他、チケット詐欺、ダフ屋もあります。これは当然、警察として検挙活動をする。それから水際対策で、海外から日本に入り込むのを阻止するという意味で、入管の強化、フーリガン対策はしています。2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会ではこういう対策がしっかりやれるようにしなければならないと思っています。以上が警察の大規模イベントでの対策、対応であります。

<危機管理>

(コンプライアンス)

 付け足しますと、コンプライアンスと言いますか、管理ということで、当然、皆さんも十分配慮、注意されていることと思います。しかしコンプライアンス、反社会的勢力の関係遮断、暴力団関係者との関係遮断、人種差別への対応ということで、スポーツイベントに限らず、最近のニュースに出ていますが、いわゆる右派系の市民グループが韓国、中国をターゲットにし、デモや街頭宣伝活動を行い、これに対しても、反対勢力が出てきていわゆるヘイトスピーチであると批判するなど、対立が激化し、衝突する事案も結構起きています。新宿、大久保あたり、大阪ですと鶴橋のあたりでそういうことが出てきて、さまざまな反応も大きくなっているのが実態です。

(選手の管理)

 選手の管理ということで警察的な立場でお話させていただくと、選手の皆さんにも、研修などでしっかり学んでいただきたいことがあります。絶対にあってはいけないのですが、薬物使用などについてです。危険ドラッグや未成年者の飲酒、喫煙、飲酒運転などの行為に対する、社会的制裁が重くなっており、起きた場合のチームへのダメージも大きいと思います。

 それから児童買春と児童ポルノ禁止法違反です。高校生のファンと仲良くなり、メールでやり取りをするようになり、その彼女に裸の写真を自分で撮って送ってと言って、自分の携帯に保存していた事案がありましたが、これは児童ポルノ禁止法違反になります。児童ポルノは18歳未満の児童のみだらな写真であります。これを持っていると、所持だけで法律違反になります。このくらいは大丈夫とか、ちょっとしたやりとりはいいだろうみたいに思うかもしれないですが、そんなに甘くはないですし、世界的には日本の児童ポルノに対する対応が生ぬるいということで、非難を受けている状況もあり、気をつけてほしいと思います。

 

 選手の管理ですが、いじめ、暴行、傷害、いわば刑事事件になるようなことは避けていただきたい。スポーツ選手へのストーカー事件もありました。こういうことがあったときは、遠慮なく警察に相談していただき、対応してもらった方がいいです。自分たちでなんとかしようとすると、被害が大きくなることもあります。

(有事への対応体制)

 有事への対応ですが、選手の突然の事故、練習中に亡くなってしまったという事例もありますし、そういう場合の救護体制もしっかり講じておく必要があります。大きな大会では医師に来ていただくとか、救急病院との連携を大事にしておくということが大事かと思います。事案発生時の広報対応ということで、何か起きたら、やはりメディア等にきちんと話すことが大事です。観客とか選手とか、関係者にもちろん情報発信するのも大事ですが、公的な報道機関であるメディアに対して、事実を発信するということも大事で、往々にして、自分たちの都合の悪いことは言いたくないですし、隠すわけではないにしても、発表が後回しになったりしますけど、そういうことに対してメディアは厳しく見ます。自分たちのミスを隠したということで、ダメージが大きくなります。

 2次的な広報対応と言いますと、昨年有名になった「DJポリス」がいまして、警視庁の第9機動隊の広報要員で、現場で群衆やデモ隊に向かって広報する役割の者で、渋谷での整理時であったと思いますが、サポーターの皆さんに声をかけ、秩序を保ちました。そういうことをやりますし、先ほど言いましたように花火大会、初もうでという人がたくさん集まる場所での警備もやります。

<2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けて>

 2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会に向けて、警察としても、平成26年の1月には、警察庁が国の機関として、私を長とする大会準備室を設置して準備を進めていますし、警視庁は東京都を管轄しておりますので、総合対策本部を設置し、準備しております。オリンピックの課題としてはテロ対策、全体の治安の確保、交通対策を念頭に置いています。何れにしても、警察の力だけでは安全安心な開催は難しい。関係者の皆さんのご協力をぜひお願いしたいと思っています。

 一通りのお話はいたしましたが、ご質問があればいかがですか。

Q:先ほどのご説明で、医師管理等のお話がありましたが、スポーツイベントの場合は、所轄警察に警備申請するわけで、所轄署と協力して、事故を未然に防ぐということが多い。サッカーの試合後、国立競技場でサポーターが暴れ、監督や選手が帰れなくなったことがあります。もっと簡単に警察にお願いできる術はないでしょうか。

A:1997年の国立競技場で、サポーターが集まって、選手がなかなか帰れなかった時、私は警視庁の警備1課で担当課長をしておりました。

 正直申し上げて、ワールドカップ以前については、「サッカーで機動隊や人が出せるか」というのが、当時の感覚だったかも知れません。しかし今は違います。サッカーの試合全部に行くわけではないですが、警備情勢を分析して、それを踏まえ、警察が出ていくべきかあるいは自主警備だけでやっていただくか、あるいはその中間で、連絡があればすぐに駆けつけます的な形にしておくか、そういった対応をしております。

 とは言いつつ、基本的には、皆さんが大会やイベントを開催するわけですから、スポーツイベントに限りませんが、警備、あるいは安全確保に支障なくこなす上で、主催者責任が第一義ではないかと思っております。

 そうは言いましても、国際大会だとか、観客が何万人とか、参加する国の国際情勢がどうかなど、様々なことを考えて、警察として早い段階から関わった方がいいか、本番で実際に部隊も配置した方がいいかというのは判断します。そういう意味でもできるだけ早めにご相談いただくことが必要と思います。以前に比べると、スポーツイベントへの警察のかかわりは多くなってきています。理解は深まっていると思いますし、理解を深めているつもりです。

Q:例えばクラブが優勝した時のパレード、感謝祭などは、どういう基準で相談したらご協力いただけるのか。そういうノウハウはあるのでしょうか。

A:パレードで一番大きかったのは、2012年ロンドン大会後のパレードでしたが、あれで文句を言う人がいるかというと、あまり聞かない。巨人軍のパレードでもあまり聞かない。早慶戦の早稲田優勝パレードも、地元の方々は喜んでいて、交通規制に対する抗議もなかった。地元の皆さんとの日ごろからの関わり、理解、スポーツ競技自体のニュース性、盛り上がり、国民の受け止め方とか、いろいろあると思います。警察が道路使用許可を出す際の検討要素となります。できるだけ国民や住民の皆さんが理解し、また理解してもらえる環境を作っていくことが必要なのではないかと思います。

Q:警視庁の組織犯罪対策本部には世話になっています。薬物取り締まりのセクションに市民集会などに来ていただき、薬物サンプルまで拝見したりしておりますが、パッケージになった講習会をお願いすると、東京都内に限って、無料で講習会をしていただいている。

 髙橋局長に話を聞くのは初めてですが、規模の大小はともかく、いろいろなイベントができてくる中で、どこに何を相談していいのか、あるいはお金がない場合、民間の警備会社にお願いできない場合、どこまでお願いできるのか。何をどう考えていけばいいのか、簡単なマニュアルのような・・どこをどう整理していかなければならないのか。大会前に留意する点とか。そういうマニュアルを作っていただく事や、ご相談に乗っていただけるシステムがあると助かるのですが。

A:ありがとうございます。たしかにトータルでまとまったものはないと思います。申し上げましたように、特に警備というものを私たちは担当しておりますが、スポーツ大会の警備全般について、講演を行うのは私にとっても今回の機会が初めてで、貴重な場でありました。これをきっかけに、さきほど「窓口を設定して相談してほしい」と申しましたけれども、そういうものが具体的にできるようにしていきたいと思います。1997年の事案から、サッカー協会の皆さんとは、いろいろなつながりができ、そういう意味では、「髙橋がいるから相談しに行ってみよう」、警察庁にいましたら「じゃあ、警視庁の担当者を紹介しましょう」、札幌に行ったら「北海道警の人を紹介しますよ」とやっているのが現状なので、相談して相互協力できないかと思います。

 あと「お金がない場合どこまでやってくれるのか」という問いがありましたけれども、まず主催者責任というのは、財政的な責任も、主催者のものかなと思います。ただ、警察は公的な立場なので、国民の皆さんの安全上、問題があるというような場面では出なければいけない。そういう要素がそのイベントにあるかですね。そうであれば、少人数でも警察官が交通整理に出たりします。地域のお祭りでも、神輿が練り歩けば、数人の警察官が整理するなどということはあり得ます。

Q:主催者側責任でボランティアをやるよと言った場合、例えば、運営スタッフ20人で警備する場合、どういうところに留意したらいいのかといった相談は?

A:全く問題はないと思います。現場での反応が皆さんの期待に応えられない場合もあるかと思いますが、できるだけ相談に乗るようにします。私たちも良くないところはどんどん直していこうと考えています。

Q:手荷物検査の強制力はどこまであるのでしょう。また、盗撮を見つけた場合のSDカードなどのデータ消去は?

A:手荷物検査は任意協力に基づく検査となります。ただ、大きな大会などで、手荷物検査場所に警察官が立っていますが、その警察官が本当に不審な人物だと、不審性が認められると、警察官には警察官職務執行法という権限があり、それに基づいて検査できます。

盗撮などを発見した場合の記録データ消去などは、民間の方には強制力がありません。「消せ」と言えば消すかもしれませんけど、一番いいのは110番通報していただくことだと思いますし、単に消したりしてその場で許しますと、またやると思います。

Q:私どもは警備計画書に基づいて自主警備を進めておりますが、駐車違反、近隣へのご迷惑など、自主警備をするにあたり、どの辺を考えたらいいでしょう。

A:駐車はですね、看板でしないようにと告知をお願いしたいと思います。車で来ないようにというお知らせと、現場での告知と、救急車が入って来られないほどのひどい駐車などの場には110番通報ということになりますね。ダフ屋取締りは警察しかできませんし、出ているようなところを撮ってもらうとか、証拠を採取する活動をしていただいて、提供して相談いただくのがありがたいと思います。 (了)