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審判員インタビュー一覧

2021-11-19

日本トップリーグ連携機構(JTL)審判プロジェクト 審判員活動PR企画【第2回】

 
 JTL審判プロジェクトでは、これまでに審判長会議や審判研修会の開催、関係省庁への働きかけなどを通じて審判員の方々の課題解決に取り組んできました。
 現在も各競技で多くの審判員が活動していますが、昨今判定の正確性やそれに伴う審判員の重圧が大きくなる中、その環境面、待遇面などでは改善の余地が多く残されているのが現状でその実態はあまり知られているとは言えません。そこでJTLに加盟する各リーグの第一線で活躍する審判員の方にインタビューし、皆様のストーリーをご紹介する月1回の連載企画を始めることにしました。
 一人でも多くの方にお読み頂ければ幸いです。
 
 第2回の審判員インタビューは、バスケットボールの審判員をされている有澤重行さん(JBA公認S級審判員)。Bリーグの担当試合は、5シーズンで209試合を数えるトップレフェリーです。

 

審判員インタビュー 第2回
有澤 重行ありさわ しげゆきさん(JBA公認S級審判員)
 

 聞き手:澤健生(JTL審判プロジェクトメンバー、(公財)日本ラグビーフットボール協会)
 

父と同じ道へ

 
――審判を始めたきっかけを教えてください。
 
有澤:元々は、バスケットボールに小学校~大学までプレーヤーとして取り組んでいました。
教員になってからも、国体選手としてプレイしていましたが、腰を悪くしてしまって。その時に、周りの方から「いつか部活動でチームを見たいなら、審判の勉強をすれば?」と言われたのがきっかけです。
また、僕の中では、父が審判を長い間やっていたことも大きかったですね。父の審判仲間がトップレベルで活動しているところも見ていたこともあると思います。
 
――審判活動を始めた時からトップレフェリーを目指そうと思っていたのですか?
有澤:教員を目指した動機は、スクールウォーズ世代だったのもあり(笑)、部活動の指導を通じて子供たちの成長に携わることだったので、審判をしようとは正直思っていなかったです。
ただ、審判をしていた父が、山口県にいらっしゃった2名の国際審判員の先輩と仲が良かったので、身近にいる存在が後押しもしてくれましたし、それを目標にしていったところはありますね。その点では、環境には恵まれていたと思います。
 

 
 

「審判活動だけでなく、活動するための+αが良い経験になった」

 
――最初の資格取得から5年でFIBAライセンス(国際審判員資格)を取得と拝見しました。
有澤:FIBAの国際審判員は、35歳まででないとなれないんですね。なので、関係者の皆さんからは先行投資をしてもらった感覚です。実際、当時の私は国内でのトップカテゴリーを担当したことはそれほど多くなく、インターハイやインカレ、国体が中心でした。そんな中で国際舞台へ送り出してくれた当時の審判長をはじめ関係者の方々には感謝しています。
 
――国際審判員としての経験が、自分の強みに繋がっていったのでしょうか?
 
有澤:海外でのゲームを担当したからレフェリングが上手くなったとか、当時はそう感じることはなかったですね。日本での評価は、国内のゲームを担当してこそと思っていました。
一方で社会人としての経験としては、とても自分のためになったと思ってます。大会ごとに職場を空けることになるので、仕事上の調整ごとだったり、時には甘えたり。審判活動に限らず、それに伴ってやったことの積み重ねが今の自分に繋がっている良い経験だったとは感じますね。
仕事上での調整でいうと、中近東エリアへ派遣の話があった時、ちょうど外務省のセキュリティレベルが上がってしまったんですね。すると、「それどころじゃない!」と所属校長が身を案じてくれたこともあって、行けなかったこともあります。大事にしてくれている裏返しだと思いました。
ちなみに、審判活動により、スポーツ庁長官奨励を頂戴したこともあって、活動範囲を認知してもらえたことが大きかった部分もあると思います。公務員の兼業解釈についても、いろいろなサポートがあると心強いです。
 
 

ゲームの準備からが、審判の仕事

 
――審判員活動の日々のルーティンを教えてください。
 
有澤:Bリーグは土曜・日曜でリーグ戦、水曜も試合があることも多いので、1週間で3試合を担当していくことになります。なので、前週の当該チームの試合をそれぞれ観ておくため、6試合のスカウティングをすることになります。今はクルーチーフとしての割り当てが主ですので、3名の審判員が一丸となってゲームに臨む準備をする仕事もあります。
具体的には情報共有と意見交換がメインで、JBAオフィスからトピックが動画などで送られてくるので、その課題や認識を共有していく。他のレフェリーの特徴も把握したいので、映像は多く観ていますね。
フィジカル面でもトレーニングしていく必要もありますが、シーズン中は情報インプットがとても増えてきます。
自分の審判活動もですが、中国ブロック審判委員長やインターハイの担当など、JBA審判委員会の事業活動における仕事もあり、主たる教員としての業務と審判業務のバランスをとるために、物理的に時間が取れる環境を、ということで定時制高校勤務という希望を出しました。そのような環境で審判活動ができていることに感謝しています。
やりがいのある活動もさせてもらっているので、どうバランスを取るかは意識して生活しています。
 

 
 
――二足のわらじは大変だと思いますが、何がエネルギーの源になっていますか?
 
有澤:最初は正直やらされている感じもありましたが、審判員がより注目されるようになってきているな、と。僕自身に対して若い人たちが色々聞いてくれることも多いですし、僕を目指してくれる人がいるのであれば、頑張らなければ、と思っています。加えて、JBA審判長の宇田川さんも同じ中国ブロック所属の教員だったこともあり、なにかと気にかけてくれています。私が審判員になったきっかけなど含め、人との繋がりや縁も強く感じますね。
 
 

共通していることは、「バスケットボールが好き」

 
――レフェリーという存在について、お聞かせいただきたいと思います。
  レフェリーにはどんな方が向いていると思いますか?
 
有澤:周りを見ると、選手と一緒で多様性がありますよ。ざっくばらんな人もいればストイックな人もいる。理詰めの方もいるし、自分の感覚を大事にする方もいる。オフコートでも、メリハリを重視してバスケット以外の話をする人もいれば、ゲーム中心に行動する人もいます。
ただ、一緒にやっている皆さんに共通しているのは、「バスケが好き」「審判仲間を大切にする」というところですね。
 
――レフェリーとして大事にしていることはありますか?
 
有澤:無事に試合を終わりたい、とはいつも思っています。ゲーム中にいろいろ言われることもあるけど、後付けで言い訳をしないように、判定までのプロセスは正確にすすめたいと思っています。若い頃は、自分の力を誇示するレフェリングもあったかもしれないけど、今は選手・コーチはもとより、観客の皆さんと良い関係を構築して、良いゲームだったと受け入れてもらえるための努力を大事にしています。できることなら、ミスも含めて誠実であり続けたいです。
 
 

「注目度が高いのは、価値ある活動ということ」

 
――Bリーグになって変わったこと、そして、レフェリー界はどうなっていくと思いますか?
 
有澤:Bリーグが開幕して数年たちますが、会場入りからゲーム終了の報告はもとより、コート外まで常にオフィスと連携しており、行動規範がより明文化・細分化された印象はありますね。バスケットボールの試合を商品として価値のあるものにするために、求められることが増えたと思います。バスケットボール界にいるファミリーの一員として、お客様に価値提供していく、ファンを増やす・拡大していく、というところが強く意識され始めたと思います。
今後、Bリーグが大きくなるにあたって、高校教員としての立場でやり続けられるのか、と思うことはありますね。例えばですが、プロ野球の審判を高校の先生が担当していたら、お客様も含めて不安に思うことはないのかな、と。
プロレフェリーは徐々に増えていくとは思っていますが、現在の立場でトップリーグを担当していることに誇りをもって笛を吹きたいと思っていますし、私たちが存在しないとリーグが成り立たないというプロフェッショナル意識をもって頑張っていきたいです。
 
※現在、JBAには2名のプロレフェリーが登録
 

 
――今後の目標は?
 
有澤:コロナの影響で活動が制限されているので、気にせずに気持ちよく審判活動がやれるようになれれば。
大きな視点だと、自分が育ててもらったように、若手を育てていきたいですね。Bリーグの審判をやりたい人も多いと思う。リーグ・協会として情報の展開をしていますし、メディアの注目もあるので、「一緒にやろうよ!」と伝えていきたい。
 
――最後に、レフェリーの良さを教えてください。
 
有澤:私たちは審判のみならず、テーブルオフィシャルズ(TO)含めて、ゲームを運営していきます。そしてバスケットボールの価値を高める必要な存在だと思います。そんな中でTOライセンスを取って東京オリンピックなどに携わる人もいたわけで、バスケットボールはプレーヤー以外にも活躍できる場がたくさんあると思っています。
審判活動は、僕にとってすごく良い自己表現の場でもあり、人間的に成長できる場なので、高校教員をやりながらも審判をやりたい人には「こんな活動の仕方もあるんだよ」とも伝えたいですね。
 
※テーブルオフィシャルズ(TO)は、審判と協力してゲームを円滑に運営するためにスコアラー、アシスタントスコアラー、タイマー、ショットクロックオペレーターの役割を担う。JBA(日本バスケットボール協会)では現在トップリーグ担当者の登録制度を実施、FIBAライセンス保有者の育成等も行っている
 
 
※この事業は競技強化支援助成金を受けておこなっております。