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審判員インタビュー一覧

2021-12-11

日本トップリーグ連携機構(JTL)審判プロジェクト 審判員活動PR企画【第3回】

 
 JTL審判プロジェクトでは、これまでに審判長会議や審判研修会の開催、関係省庁への働きかけなどを通じて審判員の方々の課題解決に取り組んできました。
 現在も各競技で多くの審判員が活動していますが、昨今判定の正確性やそれに伴う審判員の重圧が大きくなる中、その環境面、待遇面などでは改善の余地が多く残されているのが現状でその実態はあまり知られているとは言えません。そこでJTLに加盟する各リーグの第一線で活躍する審判員の方にインタビューし、皆様のストーリーをご紹介する月1回の連載企画を始めることにしました。
 一人でも多くの方にお読み頂ければ幸いです。
 
 第3回の審判員インタビューは、バスケットボールの審判員をされている小田中涼子さん(JBA公認S級審判員)。WリーグとBリーグのレフェリー、また国際審判員としてもご活躍です。

 

審判員インタビュー 第3回
小田中 涼子おだなか りょうこさん(JBA公認S級審判員)
 

 聞き手:JTL審判プロジェクト事務局
 

「一挙手一投足をとても気にしている」

 
――Wリーグ・Bリーグ共にシーズン始まって1か月ほど経ちますが、小田中さんは両リーグで笛を吹かれていますね。
 
小田中:JBA(日本バスケットボール協会)の審判部が審判の週末の割り当てを決めるのですが、私の場合週末ごとに女子・男子と行き来していますね。
JBAはBリーグ担当審判とWリーグ担当審判、それに両リーグ担当審判がいます。その中の女性の国際審判員に関しては両リーグ笛を吹くことになっていますので、私も両方担当しています。またWリーグ担当の女性審判員の中でBリーグのトライアウト制度にパスした方も両リーグ担当しています。
※Bリーグのトライアウト制度は「Bリーグチャレンジ」という名称で2017年から実施。女性がBリーグを吹くことを可能にするため、Wリーグ担当女性審判を対象にBリーグ担当審判を希望する人に対して実施する審査。
 
――女子バスケットボールはオリンピックで注目が集まっていると思います。審判の目線で感じる変化は?
 
小田中:ここ1,2年はコロナ禍でどのスポーツも無観客が多かったかと思います。そんな中オリンピック効果もあり、観客を動員しているということで、足を運んで頂いたお客さんにはかなり熱狂して見て頂いている印象は強くありますね。
 

 
 
――観客や周りからの「見られ方」は気にしますか?
 
小田中:会場に入るまでの歩き方や立ち姿、一挙手一投足をとても気にしています。髪型も試合の時はギラギラにかためていて(笑)、表情もニコニコせずに色々と使い分けて演じています。
 
 

バスケットボール人生を決めた劇的な経験

 
――岩手の大学在学中に審判を始めたそうですが、バスケットボールとの関わりを教えてください。
 
小田中:バスケットボールを始めたのは小学校1年生の時でした。その後中学高校は強豪の一貫校で、6年間寮生活をしながら全国大会を目指すとても厳しいチームにいました。
キャプテンをしていた高校3年生の時、インターハイの県予選決勝で1点差で勝って出場を決めたという劇的な経験をしたんです。それまで本当に辛い練習を命がけでしてきて勝ち切ったということが、私のバスケットボール人生で一番インパクトのある出来事でした。それがあって今もバスケットボールに携わっているところが大きいですね。
高校までかなりしっかりやってきましたので(笑)、体育大には進まず少しバスケットボールからは離れました。高校まで心技体を鍛えて頂いた中で、指導者など色んな道があると思いますが、大学で審判活動を始めたことで違う角度からバスケットボールに関わり今に至ります。
 
 
――小田中さんが感じた審判のやりがいはどういうものでしたか?
 
小田中:私が審判活動を始めた時から思っている審判のやりがいは、人間としてすごく成長できるということですね。
選手の時は自分が上手くなること、勝つことを一所懸命頑張ってきましたが、レフェリーの技術や知識を身につけることで選手やチーム、競技レベル全体の向上にもつながるかもしれない。人のために活動することが非常に面白いと感じました。
 
 

「臆することなく自分からいくことが大事」

 
――20代でJBA公認S級、国際審判員の資格を取得されていますが、トップを目指すきっかけはありましたか?
 
小田中:レフェリーを始めた当時ライセンスは7階級あり、地道に一つずつステップアップしていく形になります。色々な方々が強化してくださってトップリーグの試合を沢山見るなどして素敵な審判の方に憧れて、積み重ねていった結果今のところにたまたまいるという感じで、自然な流れでしたね。
※現在JBAの審判ライセンス制度は6階級。
 
――国際審判員の活動を通じて強く感じたことがあれば教えてください。
 
日本にいても変わらない点ですが、海外のレフェリーはより「自分」というものを強く持っています。その中でコート内外で自分のパフォーマンスを出す、コミュニケーションをとる、自分の意見を伝えるということが非常に重要と感じました。
こうした経験は仕事でも活きていると思いますし、普段から一人のレフェリーとしてどういうコミュニケーションをとりキャラクターとして認めてもらうかという部分は、臆することなく自分からいくことが大事ですね。
 
――海外の試合は独特の緊張感がありますよね。
 
小田中:やはり国と国の戦いになりますので別の緊張感があり、一触即発の空気になるのもとても早いです。国の民族的な背景や歴史など事前に勉強して臨むようにしています。
 
 

仕事と審判活動の相乗効果

 
――大学卒業後審判活動と仕事の兼業を続けていますが、両立するために心がけていることはありますか?
 
小田中:基本的に仕事とレフェリーの2つがあることが私にとって良い相乗効果があると思っています。平日はかなりハードワークで頭もとても使うシビアな仕事ですが、そこでの分析やクライアントとコミュニケーションする力がコートの上で活きてきます。片方だけでなく両方向上していくことで自分が成長できるので、大変だと思ったことはあまりないですね。
 
――職場で審判活動への理解は得られていますか?
 
小田中:どんな仕事でも最初は認めてもらうことはなかなかないと思います。やはり日頃の仕事のパフォーマンス次第で別の活動においても応援してもらえると思いますので、平日はとにかく集中して一所懸命働くということを毎日続けるようにしています。
 
――平日は仕事後の時間を審判活動にあてられていますよね。
 
小田中:ほとんどテレビは見ていません(笑)。
どの審判員の方も同じだと思いますが、土日試合で笛を吹いて日曜夜帰宅し、月曜は週末の試合の振り返り、火曜から木曜はスカウティング、金曜夜に移動して前泊入りですね。体力維持のトレーニングもしています。
割り当てに入り、フィールドに立てることを本当にありがたいと思っています。毎試合トップリーグ、プロリーグを吹く責任がありますので、やることをしっかりやってコートに立つというのは前提だと思います。
 
 

信頼され、夢を与えられる審判に

 
――審判から見たバスケットボールと選手から見たバスケットボール、それぞれの違いは?
 
小田中:レフェリーの目線で見ると選手が主役でレフェリーは黒子で良いと思っています。選手に沢山輝いていてほしいですし、お客さんにもゲームを見て感動してほしいですね。皆さんが試合に集中して目が離せないゲームは、難しいですがレフェリーの良い運営力あってのことだと思います。
選手は生活がかかっていて、我々の判定次第というところもあります。一方でお客さんにとってはひとつの商品を作り上げるパートナーですので、沢山お客さんが増えてトップリーグ、プロリーグという風になっていけば良いと思います。
 
――バスケットボールではビデオ判定を導入していますね。
 
小田中:より正しい判定を導くために有効なツールだと思っています。ただビデオを見て判断するのもレフェリーですので、基本的にはレフェリーの技術と共に機械があるというのが必要かと思います。 
 
――女性審判員も増えていている中で、これからの審判の世界のイメージは?
 
小田中:他競技の女性審判員の方も同じではないかと思いますが、選手、お客さん、スタッフ・関係者含めて「あ、今日女性レフェリーだ」という特別扱いがなくなることが理想ですね。もはや性別関係なくレフェリーはあるべきではないかと思います。
バスケットは3人でレフェリーをしますが、今Wリーグは3人全員女性のクルーがほとんどになってきました。バスケットの試合はとても速く体力が要りますが、皆さんライセンスの基準をクリアしてトップリーグのコートに自信を持って立っています。ゆくゆくは「女性レフェリー」とは呼ばずに「レフェリー」にした方が良いと思います。
 

 
――審判活動を続けていく支えは何でしょうか?
 
小田中:審判活動に限らず何かを頑張ろうとした時、一朝一夕でできるものではないと思います。長い年月をかけて一つ一つステップアップしていく中で常に周りに仲間がいて切磋琢磨して時には良いライバルであることが、自分にとってモチベーションにつながって確実に今があります。そして今もなお審判の仲間、職場の上司・同僚など本当に色んな方々に支えて頂いてレフェリー活動ができているなと実感します。
 
――若い人たちに伝えたいことがあればお願いします。
 
小田中: 試合で吹いて毎回すごく反省したりする経験は大人になってなかなかできることではないと思います。レフェリーはそうして自分と向き合う時間が長いので精神的に成長できるフィールドですね。一試合吹いたら抜け殻のようになります(笑)。
「審判員を目指す」という選択肢はあまり無いかもしれませんが、是非考えてみてほしいと思います。
 

 
――最後に、目指している審判像を聞かせてください。
 
小田中:毎試合うまくなって、技術力と人間力含めて成長してもっと信頼される、任せたいと思われるレフェリーになっていきたいですね。また「女性」と呼ばないでと話しましたが(笑)、かっこいいですとか目指したいと思われて沢山の女性に夢を与えられるような姿に成長していきたいです。
 
 
※この事業は競技強化支援助成金を受けておこなっております。