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審判員インタビュー一覧

2022-1-21

日本トップリーグ連携機構(JTL)審判プロジェクト 審判員活動PR企画【第4回】

 
 JTL審判プロジェクトでは、これまでに審判長会議や審判研修会の開催、関係省庁への働きかけなどを通じて審判員の方々の課題解決に取り組んできました。
 現在も各競技で多くの審判員が活動していますが、昨今判定の正確性やそれに伴う審判員の重圧が大きくなる中、その環境面、待遇面などでは改善の余地が多く残されているのが現状でその実態はあまり知られているとは言えません。そこでJTLに加盟する各リーグの第一線で活躍する審判員の方にインタビューし、皆様のストーリーをご紹介する月1回の連載企画を始めることにしました。
 一人でも多くの方にお読み頂ければ幸いです。
 
 第4回の審判員インタビューは、ハンドボールの審判員をされている古川英樹さんと村田哲郎さん(ともに日本ハンドボール協会公認A級審判員、アジアハンドボール連盟公認国際審判員)。ハンドボールの審判はペアで活動するため、お二人のインタビューです。

 

審判員インタビュー 第4回
古川 英樹ふるかわ ひできさん、村田 哲郎むらた てつろうさん(ともに日本ハンドボール協会公認A級審判員、アジアハンドボール連盟公認国際審判員)
 

 聞き手:備前嘉文(JTL審判プロジェクトメンバー、國學院大學准教授)
 

異なる環境でハンドボールを始める

 
――まずお二人がハンドボールを始めたきっかけについて教えてください。
 
古川:中学の部活動を決める際運動はしたいと思っていましたが、小学校の時は特に球技はしておらず、多くの新入部員が同じスタートラインから始められるハンドボールを選んだのがきっかけです。
 
村田:私は3人兄弟の一番下で、父親や姉兄がハンドボールをしていたので、常にハンドボールが近くにあるという環境でした。家族がやっているのを見るうちに、私自身もそのまま小学校3年生から始めました。
 
――ハンドボールの楽しさはどのようなところにありますか?
 
古川:ハンドボールはスピーディーで、身体接触が激しく、走って、飛んで、投げてと、競技の中に様々な要素が含まれている点が面白いと思いますね。
 
 
――ご出身の地域ではハンドボールが盛んだったのですか?
 
村田:私は福井県の福井市出身ですが、地元には小学生のチームがいくつかあって、そのまま中学校の部活動でもハンドボール部があったので、結構身近にハンドボールがある地域でしたね。
 
 

トップレベルへの道のり

 
――お二人が審判を始めたきっかけについて教えてください。
 
古川:地元の新聞に国際審判として活躍される池渕智一さんの記事が載っていて、母親が見せてくれました。その池渕さんに高校最後のインターハイ県予選の決勝を担当していただいたのですが、普段見慣れない資格証のワッペンを胸に付けられているのを見て審判に興味を持つようになりました。
 
村田:私は中学3年生の時にはハンドボールのレフェリーになることを決めていて、高校に進学する際も父や兄と同じハンドボールの名門校にレフェリーとして進学させていただきました。
 
※池渕智一さんは国際公認審判員。中学時代から審判に憧れ、小学校教諭をしながら審判活動を継続。ペアの檜崎潔さんと共にアジア大会男子決勝や世界選手権を担当。日本・アジアをけん引する世界のトップレフェリー。
 
――村田さんはなぜ中学の時からレフェリーになろうと思ったのですか?
 
村田:なぜ……なぜと言われたら難しいのですが、私自身、昔からいろいろなスポーツを見ている時も思わずレフェリーの方に目が行っていて、レフェリーのカッコよさといいますか、子どもの頃から自分も将来なりたいなとずっと思っていました。今でもいろんなスポーツを見ていると、自然とレフェリーの方に目が行ってしまいますね。
 

 
――トップレベルの審判を目指そうと思われたきっかけについて教えてください。
 
古川:大学で学生審判として学連の試合を担当させていただくうちに審判活動にどんどんのめり込みました。その時から、憧れの池渕さんのように将来は国際大会の舞台で笛を吹きたいなとは漠然と思っていました。しかし、社会人になって会社の中でいろいろな仕事を任される中で正直迷った時期もありましたが、幸いにも東アジア地区の大会を担当させていただく機会があり、それをきっかけに上のレベルを目指してみようと決めました。
 
村田:当時はどうしたらなれるのかもわからなかったのですが、中学校の時に審判になると決めた時点で将来は国際審判になりたいと思っていましたね。そして、国際審判になるためにはまずは日本のトップリーグの試合を吹けるレベルにならなければと思い、今に至っています。
 

世界をめざすために必然的なペアの結成だった

 
――ハンドボールの審判は他の競技と違い常にペアで活動されているのですが、お二人がペアを組むようになったきっかけについて教えてください。
 
古川:ハンドボールの審判はペアで活動するので、一般的には同じ県内または地域の人とペアを組みます。私も岐阜県の審判なので、最初の頃は東海地区を中心に活動していました。しかし、国際審判になれば大会に派遣されるのに長期で休みを取らなければならずなかなか同じ地域に目指す人も少なく、様々な研修コースを受ける中で同じ志を持ち、最後まで残っていた同年代の村田さんと知り合い、ペアを組むようになりました。同じ目標を持った人と知り合えたことはとてもラッキーなことだったと思います。
 
――お二人の第一印象はいかがでしたか?
 
村田:あまり覚えてないのですが……レフェリーコースやアカデミーと呼ばれる研修の中で国際審判になる厳しさや活動の様子を教えられるのですが、その厳しい状況を知っていても目指すということは、僕もですが、最初は少し変わり者かな?と思いましたね(笑)。
 
古川:最初に会ったのは、私が大学生で、村田さんが高校生の時だったと思うのですが、その当時から審判が大好きで、こんな若いうちから国際審判になりたいと言っているのだからきっとすごい子なんだろうなと思って見ていました。
 
――実際にペアを組んで、一緒に活動していく訳ですが、お互いをよりよく知るために日頃から行っている工夫などはありますか?
 
村田:僕は年下なので、だいぶわがままにやらせてもらっていますね。どこ行くにも二人一緒なのですが、いつも僕の言うことに古川さんが合わせてくれているのかなと思っていますね(笑)。
 
古川:いやいや(笑)コート上ではもちろん同等の権限を持っていて、私生活では絶対的な年齢の上下関係もあるのですが、村田さんはちょうどいい距離感で接してくれていますね。やはり普段から二人でのコミュニケーションは多く取るようにはしていますね。
 
 

周囲からの理解で成り立っている

 
――お二人は普段会社に勤務されながら審判活動をされているとのことですが、会社では上司や同僚の方などから審判の活動についてどのような反応を感じられますか?
 
村田:私が勤務する会社は、以前ハンドボールチームを持っていたこともあり、ありがたいことに社内ではハンドボールについてだいぶご理解いただいている環境だと思います。
 
古川:私も勤務先の会長が岐阜県ハンドボール協会の会長であり、以前はハンドボールチームもあったことから各職場の様々な年代にハンドボールを経験された方が多くいらっしゃいます。そうした方たちや他競技に取り組む同僚を中心に私の審判活動に対してもかなりご理解いただいていると思います。
 
――古川さんはご結婚されているとのことですが、ご家族の方は審判の活動に対してどのように思われていらっしゃるのでしょうか?
 
古川:本当に幸い理解してもらっていると思います。しかし、これから子どもが成長していく中で、環境もどんどん変化すると思うので、これからも今までと同じような状況が続くとは限らないですよね。これからも理解を得られるように、私自身も考えていかなくてはいけないと思っています。職場の方の理解もそうですが、やはり家族の理解がなくては外に出られないと思うので、双方に無理のない状況を考え続けなければ持続的な活動は難しいと思います。
 

 
――村田さんはまだ独身ですけれども、将来のことは考えていますか?
 
村田:難しいですよね……。古川さんが家族と過ごす時間と同じぐらい、ペアとして一緒の時間を過ごす期間もあるほど仕事以外の時間は審判関係の時間になり、古川さんのご家族には申し訳ないくらいです(苦笑)。そういうのを考えたら、難しい問題だなと思いますね。
 
 

頂点を決める試合のコートに立てる喜び

 
――すでにトップリーグでの試合も数多く担当されていますが、これまでの経験で審判をやっていてよかった思い出などはありますか?
 
村田:ここ最近はハンドボールファン目線でレフェリングをするようになってきましたね。なので、試合が終わった後に「ナイスジャッジ!」と言われるよりは、お客さんから「今日の試合面白かった」と言われる方が嬉しいと思うようになりましたね。その方がレフェリーが目立っていなかったということなので、ある意味でナイスジャッジだったと自分で思うようにしています。皆さんから、そう言われるように目指しています。
 
古川:そうですね、一つのモチベーションとして、すべてのハンドボーラーが夢見る舞台に立っているという嬉しさはありますね。先日も男子の日本選手権のセミファイナル(準決勝)の試合を担当したのですが、日本の頂点を決める大会のそのコートに立っているという喜びを感じましたね。幸いたくさんの観客が入って、BGMの音楽やアナウンスがある中で笛を吹くことはとても大きな経験でした。しかし、そのような喜びは胸の中に隠して、冷静にジャッジすることを心掛けました(笑)。
 
――逆に最近ではSNSなどで選手や審判などに対して心無い言葉が発せられることも多くあるのですが、お二人はSNSなどを見られたりはしますか?
 
村田:私はよく見ますね……。しかし、レフェリーをやっていてそれを気にしていてはやっていけないと思うので、もちろん一意見として受け入れることはありますけど、次のレフェリングに影響があるということはないですね。
 
古川:僕は心が弱いので、全く見ないようにしています……(笑)。しかし、ハンドボールは他競技に比べインターネット上でも情報が出ることは少ない方だと思うので、今後ハンドボールが盛り上がっていくためにはファン同士の繋がりや、さまざまな意見が出る場が増えることはとても大事ではあると思いますね。
 
――最近、多くのスポーツでビデオ判定が導入されています。お二人はビデオ判定についてはどうお考えですか?
 
村田:ハンドボールでも国内ではまだですが、国際試合では徐々に導入されてきています。レッドカードや、ゴール・ノーゴールの判断といった重要な場面では必要かなとは思いますね。
 
古川:ビデオ判定の仕組みは審判側から発信する情報なので、うまく活用することによって、ハンドボール特有のスピード感を損なうことなくいいゲームに出来ると思います。一方で、試合会場などのスクリーンで流れるスロー再生に関しては、実際にハンドボールの試合でもチームから「審判、今のプレー見たか?」といったチーム側からの情報発信に使われることも起こっています。
 
村田:ハンドボールはスローで見たり、また、カメラの角度によっては内容が変わって見えることもあるんですよね。我々レフェリーは一番近くのいい位置で見て判断することを心掛けているのですが、映像の見え方によっては誤解が生じてしまうことは難しい問題だと思いますね。
 

ハンドボールの面白さを伝えられる審判に

 
――お二人は現在アジアの大会を中心に活動されていますが、国内の大会と国際大会では違うと感じることはありますか?
 
村田:日本人の選手同士の場合、試合中に例えば「それ以上、押さないで」と言うとすぐ伝わりますが、やはり海外の試合だと、言語の違いや文化の違いもあるのでなかなか伝わらないこともありますよね。今、ハンドボールではなるべく反則を起こさせないように、予防的なコミュニケーションが求められていますが、やはり海外の選手とのコミュニケーションは難しいと感じますね。
 
古川:身体接触が醍醐味のスポーツなので、選手の安全を守りながらエキサイティングな攻防を促すための基準を示すことが難しいです。日本語でもうまく伝えることが難しいグレーゾーンの基準を海外の選手に伝えることは本当に難しいと感じますね。
 
――今後、どのような国際審判になりたいと思いますか?
 
村田:いつかは野球、サッカー、ハンドボールと言われるような人気スポーツになって欲しいですよね。そのためには、ハンドボールの面白さを多くの人に伝えられる審判になりたいですよね。
 
古川:ハンドボールも、安全に誰もが楽しめるスポーツであり続けるために年々ルールが進化しているので判定はその都度変化があります。その中で一貫して毅然とした態度でレフェリングをすることが何より重要だと思います。実際、東京オリンピックで観たレフェリーは態度や立ち居振る舞い、コミュニケーションなどがハンドボールの魅力を最大限引き出し、それを分かりやすく伝えるものであり、これが世界のトップレフェリーなのかと驚愕しました。
 
――お二人は今年の東京2020大会にも競技役員として携わられたということですが、実際にオリンピックを経験されて何か感じられましたか?
 
村田:やはりオリンピックは特別な大会なんだなと感じましたね。その中で、審判も世界中から選ばれた人たちが活躍していたので、尚更自分たちもあのような場に立ちたいと思いました。
 
古川:選手や審判はもちろんですが、音楽やアナウンスの入り方など運営面でも世界一の大会だと思いました。関係するすべての人がハンドボールの魅力を観る人に伝えようとされている気概を感じました。
 

 

審判の技術が高い国は競技力も高い

 
――ハンドボールでも国内のリーグが法人化されたり、オリンピックで代表チームが久しぶりに勝利したりと新しい動きが見られますが、今後ハンドボールが発展していくにあたり、お二人は審判の立場からどのようなことが求められると思いますか?
 
古川:今、ハンドボールの世界では審判の技術が高い国は強い国だと言われています。国内のハンドボールを発展させるために、まずは審判の技術をさらに向上させることが我々に求められることではないかと思います。
 
――今、どのスポーツを見てもまだプロの審判は少ないのですが、お二人はプロの審判には興味はありますか?
 
村田:もし可能であれば挑戦してみたい気持ちはありますね。選手は競技力を高めるために生活のほとんどの時間を費やしているのですが、私たちもその努力に応えられるだけの技術を高めたいという希望はありますよね。私だけではなく、より多くの人が切磋琢磨することによって、自ずと審判全体の技術も上がってくるのではないかと思います。そのためにも、審判を志す人がもっと増えて欲しいですよね。
 
古川:私も今は現実的ではないかもしれないですが、もし可能であればやってみたい気持ちはありますね。現状としては選手たちみたいにスポンサーを付けてというのは難しいことだとは思いますが、日本協会やリーグが審判をプロ登用しないから無理だと言うのではなく、審判自身も自立する仕組みを考える必要はあるのかなと思います。もし、審判1本で生計を立てられるようになれば、もっと審判を目指す若い人たちも増えるのではないかと思いますよね。確かに審判の活動は大変なことも多いですが、自分たちがもっと魅力を発信して、みんなが憧れるような存在になりたいですよね。

 
――質問は以上です。本日はありがとうございました。今後のお二人のご活躍を期待しています。
 
※この事業は競技強化支援助成金を受けておこなっております。