日本トップリーグ連携機構(JTL)審判プロジェクト 審判員活動PR企画【第5回】
JTL審判プロジェクトでは、これまでに審判長会議や審判研修会の開催、関係省庁への働きかけなどを通じて審判員の方々の課題解決に取り組んできました。
現在も各競技で多くの審判員が活動していますが、昨今判定の正確性やそれに伴う審判員の重圧が大きくなる中、その環境面、待遇面などでは改善の余地が多く残されているのが現状でその実態はあまり知られているとは言えません。そこでJTLに加盟する各リーグの第一線で活躍する審判員の方にインタビューし、皆様のストーリーをご紹介する月1回の連載企画を始めることにしました。
一人でも多くの方にお読み頂ければ幸いです。
第5回の審判員インタビューは、ラグビーの審判員をされている梶原晃久さん(日本協会公認A級レフリー)です。
審判員インタビュー 第5回
聞き手:家永昌樹(JTL審判プロジェクトメンバー、(公財)日本ハンドボール協会)
背中を押してもらいトップレベルに
――レフリーを始めたきっかけを教えてください。
梶原:父は高校生の時に日本代表になり、その後トップリーグのような華々しいリーグがない時代に社会人ラグビーまでやっていた影響で、3歳頃からラグビーを始めました。ラグビーが生活する中でのサイクルの一つとなり、高校まで選手をやっていました。大学進学前に「履歴書にかけるような何か」、「趣味の延長」として何かないかを考えた際、父と兄がレフリー資格を保持していたこともあり、レフリー資格を取得して始めたのがきっかけです。今は当たり前ですが、当時の大学ラグビー界に学生審判はほとんどいませんでした。
――そこからどんどんのめり込んで……
梶原:大学の体育会は2年でやめまして、3年次から母校の高校で教えて土日に試合の割り当てを頂いたら笛を吹きに行っていました。それを続けているうちに後ろから背中を押してもらった感じですね。社会人になってすぐ日本協会のアカデミーに3年間所属して、その後の27歳から今まで8年くらいトップリーグを吹いています。審判の上手下手は自分が判断することではないので、純粋にラグビーというスポーツが好きで楽しんでいました。
ラグビーが好きという気持ちで楽しめるかどうか
――レフリーは昔教員の方が多かったのが最近は一般企業に勤める方が増えています。審判活動を続けるうえで仕事との関係はいかがですか?
梶原:やはりプロレフリーではありませんので、片手間になってしまっている現状はあります。稼いでいるのは本業の仕事でそちらを疎かにすることはできませんが、24時間をどう使うかは任せられていますので早寝早起きなど環境を整えるようにしています。また会社にスポーツチームがあるわけではないのですが、1~2週間の海外研修でも送り出してくれます。たまたま前の社長が生でスポーツを見るのが好きな方で自分が担当した試合を観戦されていたり、現社長も直属の上司でしたので非常に環境を理解頂いているかと思います。自分の活動を周知する意味も含め、社内にラグビーを伝えることでラグビーの魅力を伝えられればと考えています。
チームから平日練習に参加して欲しいという連絡を頂くこともあるのですが、有給休暇、年休との兼ね合いでうまくやりくりするようにしています。
――試合のための移動というのもかなり大変ですよね。
梶原:そうですね、トップリーグを担当し始めた頃は土曜東京で担当した後日曜宮崎なんていうことも普通にありました(笑)。今季リーグワンになってからはほとんどのチームのホームタウンは東京ですので、逆に遠方在住のレフリーが移動に時間を要していますね。
――月~金が仕事だとトレーニングは平日夜ですか?
梶原:夏は太陽が早く上がりますので暑くならない朝にすることもありますが、平日夜が基本になります。昨年度は平日夜にミーティングが入ることも週2~3日ありましたね。月曜は週末の試合のレビューや判定の目線合わせ、火曜はリーダー陣のミーティング、水曜にメンバーにミーティング内容を落とし込んで木曜に次節の試合に向けた準備をして金曜に移動、というサイクルで毎週回っていく感じですね。
睡眠時間は削られてしまいますが、チームはプロで平日の昼間に練習していますので差を埋めていくにはこうしていくしかないですね。
――そうした中でトップリーグのレフリーを続けるモチベーションは何ですか?
梶原:「純粋に楽しめるか」というところだと思っています。人間である以上判定ミスなどありますが、楽しんでレフリーをやれるかということと、根底にラグビーが好きという気持ちがあることが大事になると思います。
グレーゾーンのマネジメントが難しさであり醍醐味
――ラグビーのレフリーの難しさは何ですか?
梶原:一番はどちらの判定にもなり得る「グレーゾーン」が多いスポーツではないかと思うので、そこをいかに納得・説得させられるか、ゲームマネジメントできるかは難しさであり醍醐味だと思います。
――やはり位置取りは重要でしょうか。
梶原:そうですね、ポジショニングは重要ですし先手を読めるかどうか、その時どういう反則が出やすいかを想定して頭の中で瞬時に一つ一つ潰していくということをしていますね。
――試合中アシスタントレフリー(線審)とはインカムでかなりやりとりしていますか?
梶原:あまりないんですよ。数年前からレフリーインカムをチームが公式に傍受できるようになり、映像にレフリーとのコミュニケーションを乗せたもので記録するようになっています。トップで吹いた経験の少ないレフリーと一緒の時は雑談をしてプレッシャーや緊張を和らげるのも自分の仕事になるので、そうしたことが難しくなった側面はありますね。ただトップになればなるほど喋る必要はなくなって、簡素化されていきますね。
――ラグビーではTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)のようなビデオ判定が導入されていますが、お考えを聞かせてください。
梶原:瞬間的なプレーは正直肉眼で追い切れないのでビデオ判定があると有難いですね。ただベテランの方が言われる「自分の目でしっかり見てしっかり判定しなさい」というのもレフリーとしてのプライドや自信のあるスタイルだと思います。
心理的な負担の軽減が過度な安心につながってしまう側面もあるかもしれませんが、一貫性のある判定になるという意味では良いことかなと思います。
――最近は外国人選手が増えてきて、少し荒れてきたと感じることはありますか?
梶原:反則が多い選手は印象に残りますし、プレースタイルが荒いと気性も荒いのかなと感じ取ることがあればその人をキープレイヤーとして頭に留めたり、逆にガス抜きをして落ち着かせたりキャプテンを通じて時間をとってもらうこともあります。カードを出す前にそうしたトータルマネジメントを通じてどこまでできるか、というのはこちらの課題になりますね。
自分を見つめながら頑張らないと上がれない
――リーグワンになってレフリーの環境は変わりましたか?
梶原:少し環境は良くなってきました。今協会で(レフリー)キャプテンを拝命していますので今後レフリーを目指す若い方たちにいかに魅力的だと感じてもらえるかが僕らの仕事だと思います。お金だけでなくステータス含めて全体的に環境を良くしていきたいですね。
――金銭的な条件が必ずしもレフリー継続を左右しない中で、若いレフリーが認めてもらうために必要なことは何ですか?
梶原:試合を見て楽しめるかどうかが一つの材料になるかなと思います。自分が楽しめて両チームに還元され、観客の方が結果「試合面白かったね」と感じてハッピーでいられるゲームマネジメントができるかどうかというところですね。
――これからレフリーを目指す若い方たちにメッセージをお願いします。
梶原:トップに昇格したくても昇格できないという組織的な部分はどうしてもあります。ですが裏で引っ張って押し上げてくれる人はいるので、外的な要因に文句を言うのではなく、自分が試合を楽しんで「次はこうしよう」「こないだここが出来なかったので改善しよう」ということを一つ一ついかにやっていくかが必要になってきます。それによって評価されて引っ張りや押し上げにつながるので、ないがしろにはして欲しくないですね。もちろんトップになればなるほど環境は良くなりますが、そのステータスだけを見てしまっては根底が覆ってしまいます。自分を見つめながら頑張らないと昇格することも難しいと思います。
――自分たちで勝ち取らないといけない。
梶原:やはりライバルはいますので。今の自分はステータスを上げていく立場にありますけれど、ステータスのない若い人たちはそこへ行くためにどれだけ頑張れるかだと思います。
今はライバルであっても割り当てをもらえた人を祝福しようという環境に変えていった部分もあります。100試合担当など節目の時には公式だけでなくレフリー仲間でも称え合うことでモチベーションになりますし、仲間という意識も芽生えてきますね。
――最後に、梶原さんの将来のレフリー像を聞かせてください。
梶原:やはり「自分らしさ」がないと面白味がなくなってしまうのではないでしょうか。「このレフリーだからこういう試合になるだろう」というのも面白さの一つで、ファンの方の想像やチームによる分析もありますのでそことの駆け引きも興味深いと思っています。
ですので、「自分らしさ」を大切にしながら80分間を楽しんで務め上げ、無事に終えられるようなレフリーになっていきたいです。
※この事業は競技強化支援助成金を受けておこなっております。