「あそビバ!」プログラム開発の背景
1.子どもの体力低下
〔子どもの体力低下〕
子どもの体力・運動能力低下は、社会的な問題となっています。2009年10月12日「体育の日」の新聞やニュースによると、子どもの体力は少し向上したと伝えらました。文部科学省スポーツ青少年局生涯スポーツ課が、子どもの体力について取り扱っており、プレス発表もされました。しかし、実際に調査した研究者によると、「向上しているわけではない」ことを明らかにしています。
子どもの体力向上に関して、さまざまな取り組みも行われ、その努力によって多少の変動はあります。しかし、今の状況は、向上したのではなく低下してきたものが底をついた、という表現が正しいでしょう。私たちは、上向きに向上していくわけではないと考えています。この状況は、何年か経つと、再び低下をして向上することが予想され、低下と向上を繰り返すような状況にあると思われます。
〔子どもたちに増えてきているケガ〕
最近の子どもたちは、今までは考えられなかったケガをしています。つまずいて転んで、手をつけない子どもがいたり、危険を感じても危険を回避できない子どもがいたりします。
例えば、小学校の体育の時間や休み時間、昼休みなどに、子どもたちはドッヂボールをよくやります。ドッヂボールが自分の顔の高さに飛んできたときに、それをうまく捕ることができません。捕ることができないどころか、飛んできたボールをよけることや、はたくこともできず、顔面にボールを当ててしまう子どももいます。
さらに、深刻なケガとして、顔面にボールが飛んできたときに、目が閉じられないという事態が起きています。その結果、眼球損傷で失明した子どももいます。こういった報告からもわかるように、子どもたちは、いろいろな動きの経験の不足から、動きが身につかず、今までにはなかったさまざまなケガをしています。
他にも、子どもの頃、階段を往復したり、飛び降りたりして遊んでいたと思います。運動能力の高い子どもは、おどり場くらいから飛び降りて遊ぶ光景がありました。最近では、そうやって遊んでいても、高さ50cm程度の高さくらいから飛び降りて、両脚を骨折する子どもがいます。骨がもろくなっていることが一つの原因ですが、飛び降り方がわからないということも関係しています。飛び降りるときに、足関節、膝関節、股関節といった下半身の3つの関節をうまく使って、車のダンパーのように力を逃がすことができません。そういった動きをしたことがない子どもは、力を吸収できずに脚を骨折してしまいます。
つまずいて転んで手がつけない、ボールが飛んできて目が閉じられない、といった現象は、もともと人間が持っていた最低限の危険回避能力を、今の子どもたちは身につけていないということです。そのくらい運動経験が少なく、危機的な状況が出てきています。
〔体力テストによる評価〕
近年問題になっている体力低下は、新体力テストというスポーツテストの指標を用いて評価しています。日本では、1964年東京オリンピックの年から、子どもの体力や運動能力を測定する体力テストを実施しています。1998年からは、新体力テストという名前に変わりました。対象の年齢を変えたり、立位体前屈から長座体前屈に変えたり、持久走をシャトルランにしたりと種目を少しずつ変える経緯はありましたが、毎年実施する中で、基本的に評価しているものが4つあります。
1つ目は力を発揮する能力です。体力的な要素で考えると、筋力やパワーになります。2つ目は持久力です。筋持久力、全身持久力といったものも含めた、長く運動する能力です。3つ目は、体をコントロールする調整力です。最近では、コーディネーションといった言葉が近い内容で、自分の体をコントロールする能力です。4つ目は、以上の3つを総合した運動能力になります。これら、4つの軸を中心に子どもの体力・運動能力を評価してきました。
この体力テストの結果から、日本の子どもたちの体力・運動能力の低下が始まったのは、1980年代半ばからということがわかっています。文部省(’97年当時)の「体力・運動能力調査報告書」のグラフを参照すると、11歳を対象とした一つの典型として見ることができます。6歳から19歳までのすべての年齢においても、同じように子どもたちの体力や運動能力の平均値は下がっています。